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- 小川万紀子様(吉祥寺二葉栄養調理専門職学校)|食と人
吉祥寺二葉栄養調理専門職学校 校長
小川万紀子様
小川万紀子様のご紹介
著書は『しっかり食べよう朝食』少年写真新聞社、『電子レンジらくらくダイエット (Diet Recipeシリーズ)』女子栄養大学出版部、『食べて治すうつ症状? ココロとカラダを元気にする新栄養学』学研など、他、多数。
吉祥寺二葉栄養調理専門職学校HP
小川様にとって「食」とは
「人生を満足させてくれるもの」
左:小川万紀子様
右:井上祐子様(インタビュアー)
(以下敬称略)
井上:本日は本当にお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。よろしくお願いします。はじめに、先生にとっての『食』とは、どのような思いであるか伺いたいと思います。
小川:『食』って生きているものにとって欠かせないものですよね。人間もそうですが、動物や植物にとっても同様です。私は管理栄養士なので栄養素だとかバランスのことをつい考えてしまいます。食物というのは人間にとってエネルギーになるもの、体を作るもの、そして体の調整機能があるものであり、それが五大栄養素ですよね。でも本当に大切なのは、その人の生活を豊かにして、その人の人生を満足させてくれるということだと思います。食べることによって「おいしかった」「楽しかった」と満足して幸せになれる、それが『食』に最も大事なことだといつも感じています。
栄養士のいけないところは、まずエネルギー計算をして食品構成を作って、「おいしい」とか「嬉しい」「楽しい」が後回しになってしまうところかもしれません。食べて「おいしかったな」「こんなにおいしく食べられて幸せだな」「今日も一日満足だったな」というふうに思えるということが、私の『食』に対する一番の思いです。
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井上: 心を豊かにすること、満足して幸せになること、それに対して栄養士という部分も大切にされていますよね。
小川:たとえば好きな食べものがあっても、そればかり食べていたら飽きてしまいますよね。それはきっともう体が欲していないということで、そうなったら体が欲しているものを食べればいいんです。管理栄養士の立場でそんなことを言うのはよくないかもしれませんが、個人としてはそう感じています。体というのは正直ですから、心身ともに調子がいいときと胃腸や心が疲れているときとでは食べたいものが違ってきます。食べられるということはまず幸せなことなんですよね。
「しょくじ」は「食餌」ではなく「食事」、『食』をちゃんと「事」にしなくてはいけないということを、私は栄養学の最初の授業で教えます。生きるためだけの食事なら、たとえば必要なものが全部含まれているタブレットを飲んでいればいい。それで済むなら楽ですよね。でもそれではきっと満足できないでしょう。見た目や香り、食感などの五感がないですからね。たとえ食事制限をされている方であってもちゃんと満足して食べていただけるものを提供する。それは栄養士をはじめとして食に関わる人たちのスキルではないでしょうか。
井上:大学をご卒業されてから、いまのこのポジションに就かれるまでの経歴をお伺いしたいのですが。
小川: 女子栄養大学の大学院を出てから、まず日本大学の歯学部で助手を務めました。それから女子栄養大学で講師をしたり、他校の栄養士養成課程などで経験を積んだりしていましたけれども、あるとき恩師に声をかけられまして。その恩師というのは吉祥寺二葉栄養調理専門職学校に管理栄養士科を立ち上げたときの校長だったのですが、まずは週に1日くらい教えに来ないかと誘われて、非常勤で勤めはじめました。その後常勤になりましたが、家事の一切を任せていた母が亡くなって、仕事に通うのが難しくなってしまいました。そのころ、以前、お声がけいただいた帝京平成大学が池袋キャンパスを開設したので、家から近くて通いやすいこともあり、教授の職に就きました。そこで定年まで勤めるつもりでいたのですが、今度は二葉の理事長から「校長で戻ってこないか」というお話がありまして。何の不満もない池袋でのお仕事から、吉祥寺での校長職へというのは正直考えにくい選択だったのですが、毎週は通えないという条件も快諾していただいて、それでもまだ迷いはありましたが、父に背中を押されて決心しましたね。
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井上:ご卒業後はずっと教育業界におられたのですね。
小川:教員オンリーでやってきましたが、私は管理栄養士ですから実務が必要です。これまでに企業の健保組合で患者さんと接したり、いまも土曜日には近くのクリニックに行ったりということをしています。実務経験がないまま教科書に沿って教えても学生さんには響きません。私どもの学校では病院経験のある人や保健所にいた人に教員として来てもらっていますが、それは教育の場でも現場のことが大事だと考えているからです。
井上:こちらで校長先生になられて、いま何年目ですか。
小川:もう9年目になります。実は4月に校長になったその年の6月に父が亡くなったんです。父は都立高校の校長を務めていたのですが、そんな父にしてみると、自分の娘がずっと教育畑で勤めて、自分と同じ校長職に就いたことは多分嬉しかったと思います。もともと教育者同士としては議論をすることも多かったのですが、尊敬できる部分がすごくありましたね。もう少し元気でいてくれたらいろんな話ができたなと思うと残念です。
井上:私は本年度より御校でお仕事をさせて頂いておりますが、事務連絡を含め、様々な事の進み方が迅速で的確なのでとても助かっています。校長のお立場として心に留めておられることがあるのでしょうか。
小川:私は決断が早いといいますか、何でも即断してしまうんです。これは父譲りの性格もあると思いますが、校長を引き受けた以上は私がしっかり決断をしなければいけないと考えています。そしてきちんと指示を出すこと。こうしたトップダウンをしっかりやることで職員は動きやすくなるし、学生さんや保護者の方の安心にもつながります。
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井上:校長職のほかにもいろいろなお仕事を引き受けていらっしゃいますよね。
小川:校長のほかにも、この学校の理事と評議員をはじめ、いろいろな学会や協会の理事や評議員などを引き受けています。コロナ禍の影響でほとんどがオンライン会議だったので何とかやっていましたが、そろそろ出向かないといけなくなって大変になってきました。
井上:教育を軸に本当に多岐にわたってのお仕事をお持ちですね。そんなお忙しい中でもご趣味であったり、いま力を入れていることであったり、というのをお聞かせいただけますか。
小川:私、無趣味なんですよ。いまは月水金だけ出勤しているのですが、残りの火木は在宅でリモートワーク的なことをしています。必ず電話がかかってくるし、メールもありますし。ですから「趣味は何ですか」と聞かれれば「仕事が趣味です」ということになるかもしれません。嫌だったらやらないし、楽しいんですよ。卒業式に卒業証書を渡すときは非常に感慨深いものですし、一年中行事やら何かがあって飽きないですし。
「いま力を入れていること」というのも、ともかくここの学生さんをみんな中途退学しないで卒業させること、そして一人でも多く入学してもらうことです。
井上:ここまで先生のお話を伺っていて、先生にとってお父さまの存在というものが本当に大きいんだなと感じました。
小川:確かにそれはありますね。父が教育者じゃなかったらこの道に進んでいなかったかもしれません。ずっと父を見て育ってきているので、私の中の教育像に影響していると思います。母が亡くなって父と同居していたときにも、学校で仕事をしていれば急に帰りが遅くなることもあると理解してくれていたし、校長になる決断を後押ししてくれたのも父でした。もう少し長く生きていてくれたら校長としての心得のようなことを教えてもらえただろうな、と思うとやや心残りです。
井上:よくわかります。私にとっても父親は人生の先輩であり、頼りになる相談相手でもありましたから。
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井上:先生にとってこれからの学校のビジョン、校長としてやっていきたいことなどをお聞かせいただけますか?
小川:うちは国家資格が取得できる学校です。栄養士にしても調理師にしても、専門に特化した職業人になるための免許証を厚生労働大臣や都道府県知事から授かるわけですし、管理栄養士は国家試験がありますので、いい加減な成績やいい加減な出席で卒業させることはできません。遅刻や欠席については厳しいですし、駄目なことは駄目だときちんと指導します。また、その根拠となる基準や境界線を学生たちに分かりやすく示すことにも注力しています。そして、ずっと怒ってばかりではなく、苦手な箇所を一人一人丁寧に教えたり、一緒に休憩を取ったり、学生たちに寄り添うことも大事にしています。
井上:学生たちから見て納得できるような指導をされているのですね。厳しさの中にも学生たちに対する先生の思いが感じられます。
小川:学生たちが無事卒業するときに「この学校に来てよかった!」「みんなで卒業できてよかった!」と喜んでくれることが私たちの喜びでもあります。愛情を持っての厳しさだったということが分かってもらえていたのかなと思いますね。
井上:個人的なことで恐縮ですが、学生の頃、万紀子先生より学びを得て、時を経てこのようなかたちでお仕事をさせて頂けることは本当にうれしく、学生時代には想像もできないことでした。本日は貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。
井上祐子様には、各業界の方々の『食』やその人の人物像にフォーカスするインタビュー企画のMCとしてご協力いただきます。今後もお楽しみに!
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