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歯科医師
西原宏軌様
西原宏軌様のご紹介
東川口さざんか歯科 副院長
平成28年 日本大学歯学部卒業
平成29年 日本大学歯学部付属歯科病院 総合診療科 勤務
令和 2年 東川口さざんか歯科 勤務
西原デンタルオフィス 公式サイト
https://www.nishihara-do.com/
東川口さざんか歯科 公式サイト
https://sazanka-dc.com/
西原様にとって「食」とは
「生きること」
左:西原宏軌様
右:井上祐子様(インタビュアー)
(以下敬称略)
井上:口といえば食べるということで、先生にとって食を一言で言うと何でしょうか?
西原:やっぱり生きることと同義といいますか、歯科医は食べるということを細分化していくような仕事だと思っています。たまに入れ歯を持っていないおじいちゃん、おばあちゃんが「歯はないけど食べられる」と言うことがありますが、咀嚼して食べていると言えるのかというとそうではないと思います。
今、保険で認められている検査で、どれだけ噛めているかという咀嚼機能検査というものがありますが、一度そういった検査をしてもらってもいいと思います。
井上:咀嚼ができないと飲み込んでいるだけだから栄養も取れないですよね?
西原:咀嚼して吸収しないと、体力につながらない。せっかく管理栄養士さんが料理を提案して、作って提供しても、それを咀嚼して取り込めない。今は医療も進歩して治療によって噛めるようになったということを数値化できるようになりました。その努力をしています。
井上:その噛む力を数値化する時に、歯がもうない状態とか、噛む力がない人は、筋トレみたいな考え方で咀嚼力を上げることは可能なのでしょうか?
西原:可能ではあります。ただ、これは咀嚼力、いわゆるパワーと、細かく粉砕するという機能とで別なので、筋トレで済むものなのか。例えば、歯がない方に補綴と言われる歯を補う治療をおこなって機能回復を図りますが、最近、TVなどで歯を全部抜いてインプラントにする治療が紹介されていて、結局歯は戻るのですが、僕はそれできちんと噛めて咀嚼できているのかは別だと思っています。
天然の歯には「歯根膜」という組織があって、これが歯ごたえを感じるセンサーになっています。0.3 mmほどのすごく小さな組織ですが、非常に優秀です。このセンサーに諸説あって、まだ解明はされていないですが、僕はこれがすごく大事なものだと考えているので、歯をなるべく抜かない治療を第一に考えています。
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井上:歯の再生技術が進歩しているニュースを以前に見たのですが、再生医療はその後、進んでいますか?
西原:研究段階では進んでいるという話は聞きますが、それが臨床応用されて実際に皆さんのお手元に届くまでには未だ時間がかかるのではないかと思います。
井上:でも、そういう医療が可能になってきたら、先ほどの噛む力の数値化や、天然の歯の機能という部分がすごく有効的に使えるようになると思いますが、先生はどのように思われますか?
西原:そうですね。今、ご高齢の方がグレーゾーンと言うか、我々はオーラルフレイル※1と言ったりしますが、そこに行くまでの途中段階で如何に少しでも早く見つけて対応するかが、歯科に求められている重要な役割なのかなと思っています。
※1オーラルフレイルとは、噛んだり、飲み込んだり、話をしたりするための口腔機能が衰えることを言います。
健康な方が行かれる医療機関って、おそらく、歯科が一番多いと思うんですよ。メンテナンスなんかも含めて。特に気になる症状は無い段階で、でも歯科に来ていただけたので早期に兆候を発見して対応できるようになる、これがこれからの課題なのかなと思っています。だから病院でも血液検査などいろいろできるようにしていきたいと思いますし、それこそ食についてのことも考えたりします。
井上:先生、やっぱり飲食店を作ればいいんですよ(笑)
西原:実は、今すごく多いです。特に地方の歯科医院さんに多くて、カフェと併設しているとか、日本料理店みたいな本格的な飲食店が併設しているところも結構多くて。歯科に興味はなくても、食べることに興味がある方っていうのはたくさんいらっしゃるわけですから。そういった努力をされている先生は最近すごく多いです。
井上:興味深いお話をたくさん聞いている中、先生が歯科医になられたことが気になります。現在までの経歴を教えていただけますか?
西原:僕の父で三代歯科医をしていて、高校まではサッカーに明け暮れていたのですが、医者になるか、歯医者になるか、サッカー選手を目指すか、進路を考えました。三代続いているこの仕事を長男として引き継いでいけたらという思いで歯科医師を選択しました。
井上:お父様の跡を継いで歯科医師になるということに対して抵抗はありましたか?
西原:抵抗自体はなかったですね。ただ、医療ドラマを見ていたりすると、圧倒的に医者の方が多かったので、医者になりたい気持ちは最初ありました。
井上:歯科医師でもいろいろ選択肢があると思います。大学病院などの専門ではなく一般歯科に進まれたのですか?
西原:専門的にやられている先生方もとても素晴らしいと思っておりますが、私個人としては地域住民の方が口腔内で困っていることに対して幅広く対応したいと思い一般歯科の道を選びました。特に歯を残すための保存治療や歯を既に失ってしまった方に対する補綴治療には力を入れております。
最近は補綴治療の選択肢にインプラントという革新的な方法があり私も勉強をしておりますが、その勉強をする際に、インプラントってすごい治療法に見えるけど、きちんと考えなかったら10年後、20年後にとんでもないことになるから――ということを父にすごく言われますね。何のためのインプラント治療をするのか?ということは考えてやるようにしていますし、患者様には時間をかけて治療に対する説明をするように心がけていますね。
井上:確かにインプラントって、こうなる予定ではなかったという声が届くというか、ニュースにもなるので、本当に難しいところだなと思っています。
西原:あくまで自分の歯を支える、口腔機能を維持するためにやったものなのに、インプラントは残っているけど、自分の歯がどんどんなくなっていったとしたら、意味があるのかという話になります。だからこそ充分に考えてからやるべきだと思います。
井上:今まで多くの患者さんを診てこられたと思いますが、印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか?
西原:僕らで何かをしたわけではないですけど、脳梗塞で倒れられて麻痺が残ってしまう、そういう全身に病気を抱えられている方のお手伝いができたなって感じる時ですね。特定の誰かというわけではないですが、そういう方が通ってくださって,しっかりと自分の歯を守ろうとしている姿を見たり、その行動が変わるきっかけをつくることが出来たり、実際に良くなっているのを見たりした時は、なんかこう嬉しいなと思うことは多いですね。
井上:私の歯科主治医は西原先生で、ほぼ毎月メンテナンスでお世話になっておりますが(笑)、サポートがすごいなと思っているんです。通院していると診療所の色々が垣間見えますよね。来られない方を迎えに行くとか、歯科衛生士さんや受付の対応が患者さんにとても丁寧だなと感じます。そのぶん、患者さんからのありがとうの声も大きいのかなと感じます。きっと診療所全体で気持ちの寄り添いが大きいのかなと思ったりします。
西原:そう思っていただければすごく嬉しいですね。おせっかいになっちゃうことも、もちろんありますけど。興味のなかった方が興味を持ってくださって、歯だけはやっぱり自分のものですからね。28本あるから、1本なくなってもいいやと思うかもしれないですけど、大事な1本ですからね。
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井上:ちなみに歯にあまり良くない食べ物というのはありますか、酸とか?
西原:まあ取りすぎというところですね。やっぱり酸は歯を溶かしますし、甘いものもそうですね。それと、歯にとって悪いのは食べる量ではなく回数ですね。お子さんとかによく伝えていただきたいですが、同じものを1回でドカッと食べる。もちろんこれは体に良くないですが、例えば、1袋のグミを一気に食べる人と、1日数回に分けてグミを食べる人だったら、明らかに後者の方が虫歯になるリスクは高いです。
井上:小分けにして食べた方が体には良い時もあるけど、歯には良くない。甘いもの好きだから、チョコレートとかついつい間食しちゃいます。難しい課題ですね。キシリトールはどうでうすか。
西原:虫歯菌は糖を取り込んで酸を出します。その酸で歯が溶けていくというメカニズムになります。キシリトールに関しては、取り込みますが、酸を出せないんです。酸に変えられない糖なので、キシリトールは有効だと思います。
井上:まだまだ未来がありそうなお話ですが、これからこういうことをやっていきたいとか、お考えはありますか。
西原:そうですね。一つは、僕自身がこの間、倒れたということもあって、健康に対して、もう少し歯科の立場からアプローチできることが増えればいいなと思っています。生活って全部つながっているものなので。運動もそうだし、食事もそうだし、子供だったら遊びの一環もそうだし、いろんなことを歯科でつなげたいなという思いがあります。
飲食店やスポーツジムとか 、歯科と一見、離れているところをなんとかつなげていきたいなと、それには収益化が必要なわけで、今いろいろ勉強させてもらっています 。
井上:本日は大変、貴重なお話をありがとうございました。
井上祐子様には、各業界の方々の『食』やその人の人物像にフォーカスするインタビュー企画のMCとしてご協力いただきます。今後もお楽しみに!
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