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最近のノロウイルスの流行状況について

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1. はじめに

2019年末の中国武漢市における集団発生に端を発した新型コロナウイルスの流行は、1918年のスペイン風邪に次いで大きなパンデミックとなり、私たちの生活は一変しました。

新型コロナウイルスの流行は他のウイルス感染症の流行にも影響し、報道のようにインフルエンザの流行は2020年以降極めて低調です。食中毒や感染性胃腸炎の主要な原因ウイルスであるノロウイルスの流行も、同じように極めて少ない状況が続いています。

しかし、ノロウイルスの流行は2017年以降減少傾向がみられていました。ここでは、最近のノロウイルスの流行状況を概観し、流行が低調である要因を考えてみたいと思います。

2. ノロウイルスの感染症・食中毒の発生状況

まず、近年のノロウイルスの流行状況や集団感染症・食中毒の発生状況をみてみましょう。

(1) 感染性胃腸炎の流行状況

感染性胃腸炎は、嘔吐や下痢を主徴とする小児の感染症で、感染症法において「五類定点把握感染症」に分類され、全国約3,000の定点医療機関から患者数などが報告されています。

ノロウイルスは感染性胃腸炎の主要な病原体ですが、サポウイルスなど様々な病原体によっても起こるため、必ずしもノロウイルスが原因とは限りません。

感染性胃腸炎は例年11月頃から患者数が増加し、12月にピークを迎え、年明けから春先にかけて流行します。

しかし、2017年以降は夏季から秋季にかけて減少傾向は認められるものの、明確なピークを示さない状況が続いています(図1)。

新型コロナウイルスの国内での感染者が顕在化しはじめた2020年の3月から4月にかけて、ノロウイルスの流行は減少に転じ、それ以降は顕著な患者数の増加は認められていません。

図1 全国の感染性胃腸炎の定点当たり報告数(2004年~2021年)
図1 全国の感染性胃腸炎の定点当たり報告数(2004年~2021年)

 

(2)ノロウイルス食中毒の発生状況

厚生労働省の食中毒統計に基づくノロウイルス食中毒の事件数(図2)をみると、2003年から2016年は年により異なるものの268件~501件で推移していました。

特に、後述のように2006年はDenHaag2006bと呼ばれる遺伝子型GII.4に属する変異株、2015年はGII.17変異株が出現後大きな流行を起こし、食中毒事件も多発しました。

しかし、2017年以降は256件以下で推移し、少ない発生が続いています。

2020年は、1月~3月は85件が報告されましたが、4月以降はわずか14件に過ぎず、年間で99件の発生でした。

原因施設別にみると、ノロウイルス食中毒の多くは飲食店で発生しており(図2)、近年は飲食店での発生割合が増加傾向にあります(図3)。

原因施設別ノロウイルス食中毒事件数
図2 原因施設別ノロウイルス食中毒事件数(2003年~2020年)

 

ノロウイルス食中毒事件の原因施設別の発生割
図3 ノロウイルス食中毒事件の原因施設別の発生割合(2003年~2020年)

 

(3)食品媒介胃腸炎集団発生事例報告からみる発生状況

食中毒事件とは別に、国立感染症研究所・感染症情報センターは、地方衛生研究所から報告された食品媒介胃腸炎集団発生について集計しています(報告は任意であり、すべての事例が報告されている訳ではありません)。この集計では、食中毒や有症苦情などの食品媒介集団事例(疑い例を含む)に加え、ヒト-ヒト感染による集団発生や感染経路不明の集団発生事例が含まれます。

この報告をみても、2017年以降ノロウイルスの集団発生が減少傾向にあることが分かります(図4)。

感染経路別のノロウイルス集団発生の報告数
図4 感染経路別のノロウイルス集団発生の報告数(2011年~2020年)

 

(4) 検出ノロウイルスの遺伝子型

地方衛生研究所等で検出されたノロウイルスの遺伝子型別の検出割合を図5に示しました。検出されたノロウイルスの遺伝子型は年により異なりますが、2006年以降多くの年で遺伝子型GII.4が主流を占めています。

GII.4は他の遺伝子型と比較して、変異を起こしやすい特徴があります。特に、2006年はDenHaag2006bと呼ばれる変異株が世界的に大流行を引き起こし、国内でも検出されたノロウイルスの90%以上を占めました。その後、2012年にSydney2012と呼ばれる変異株が大きな流行を起こしました。しかし、その後GII.4の新しい変異株の流行はなく、現在に至るまで、Sydney2012に近い株の流行が続いています。

2015年にはそれまでほとんど検出されていなかったGII.17が出現し、流行を起こし、その後、継続的に検出されています。

2016年にはGII.2が特に小児の間で大きな流行を起こして以降、現在に至るまでGII.4とともに主要流行遺伝子型となっています。

ノロウイルスの遺伝子型別の検出割合
図5 ノロウイルスの遺伝子型別の検出割合(2005年~2021年)

3. 2017年以降のノロウイルスの流行が低調な要因

以上の疫学データから示されるように、2017年以降ノロウイルスの感染症や食中毒は少ない発生で推移しています。明確に科学的に証明されているわけではありませんが、以下の要因が考えられます。

①新しい遺伝子型や変異株の出現がない

2000年代に入り、ノロウイルスの流行は遺伝子型GII.4が中心でした。2006年のDenHaag2006b、2012年のSydney2012は大きな流行を起こし、ノロウイルス感染者数や食中毒事件数は急増しました。それ以前にも、数年ごとにGII.4は新しい変異株が出現し、流行を繰り返していました。しかし、2012年以降、新しいGII.4の変異株の出現はなく、現在でもSydney2012が主流となっています。

一方、2015年にはGII.17の変異株が出現し、さらには2016年にはGII.2が流行を起こしましたが、その後は、GII.4を含め、これらの遺伝子型が流行している状況です。

同じ型のウイルスが流行すると、抵抗力(免疫)をもつヒトが増えるため、一般に流行は抑えられることになります。

②ノロウイルス遺伝子型GII.17による影響

2021年11月15日にWeb開催されたウイルス性下痢症研究会第32回学術集会において、秋田県健康環境センターの斎藤博之先生は、「近年におけるノロウイルス胃腸炎の流行低迷に関する一考察」というタイトルで講演されました。その内容をまとめると以下のようになります。

  • 最近(2018年以降)は小児の感染性胃腸炎や食中毒事例からのGII.17の検出は少ない。
  • しかし、下水やカキからは高頻度にGII.17が検出されている。
  • 以上から、GII.17の弱毒化が進み、不顕性感染を起こしやすく変異している可能性がある。
  • 一方、GII.17に感染すると、他の遺伝子型に対しても免疫応答があり(血液中のIgG抗体が上昇)、交差免疫反応を誘導している可能性がある。
  • また、GII.17に感染することで、干渉作用により他のウイルスの感染を抑えている可能性もある。


以上のようなことから、GII.17に暴露され、不顕性感染することで、他の遺伝子型に対しても免疫等が作用し、結果として、ノロウイルスの感染、流行が抑えられている可能性があるということになります。

4. 新型コロナウイルス出現後のノロウイルスの流行が低調な要因

ノロウイルスの流行は2017年以降低調で推移していました、新型コロナウイルスの出現以降の発生はさらに少なくなっています。これには以下の要因が考えられます。

①新型コロナウイルス対策がノロウイルス対策にも有効

国民の皆さんが日々実施されている手洗い、手指消毒、マスク着用、環境の消毒等がノロウイルス等の他の感染症対策にも有効に働いている。

②人流抑制に伴う感染機会の減少

新型コロナウイルス感染拡大防止のための人流抑制対策により、他のウイルスの感染機会も減少した。

③飲食店の営業自粛等による外食の機会の減少

ノロウイルス食中毒の多くは飲食店で発生している(図2)。しかし、飲食店の営業自粛に伴い、飲食店での飲食機会や大人数での会食機会が大きく減少し、ノロウイルス食中毒が減少した。

また、人流抑制による旅行の機会の減少に伴い、旅館等の利用も減少した。

学校においても新型コロナウイルス対策として安全な給食のサービスが行われた。

④高齢者施設への面会機会の減少

高齢者施設でのノロウイルス集団発生は、従業員や面会者等、外部からの訪問者がウイルスを持ち込み発生することが多いとされている。高齢者は新型コロナウイルス感染により重篤化や死に至る危険性が高いことから、多くの施設で訪問者との面会は控えられた。このため、外部からノロウイルスが持ち込まれる危険性は低くなり、高齢者施設での集団発生は減少した。

⑤感染者の受診控え

医療機関での新型コロナウイルスの院内感染や外出による感染リスクを恐れて、感染者が医療機関の受診を控えた。特に、ノロウイルス感染では、一般に数日で回復し、有効な抗ウイルス剤もなく対処療法しかないなど、受診を控えることは想定される。

以上のようなことを背景として、ノロウイルスの流行や食中毒は少ない状況を維持していると考えられます。

5. 今後の流行について

今後も同じような状況が続いてほしいのですが、なかなかそううまくは行きません。社会経済活動の活発化に伴い、ヒトとヒトとの交流や、海外からの渡航者は増加し、多くの感染症の感染機会は増えてきます。

また、流行が低調な状態が続くと、感染機会が減少するためヒトの免疫力が低下し、流行が起こりやすい状況になります。

流行や食中毒をできるだけ少なく抑えるためには、新型コロナウイルス対策で身に着けた衛生的な行動やノロウイルス対策を、日常生活の中に無理なく取り入れて、日々継続することがなにより大切になります。

 

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

 

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