消毒剤の基礎知識(2)消毒剤の濃度表示

消毒剤を正しく使用するためには、
①消毒対象に対して適切な消毒剤を選択する
②消毒剤を適切な濃度で、必要な時間使う
ことが大切です。
今回は、消毒剤の濃度について、特に使用頻度が高い、アルコール系消毒剤と塩素系消毒剤について説明します。
1. アルコール系消毒剤
(1)アルコール系消毒剤の濃度の表し方
前回のお話(消毒剤の基礎知識(1)消毒剤の分類)で、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)において、消毒用エタノールは容量パーセント(vol%)で記載されている一方、食品添加物として使用されるアルコールは重量%(wt%)で記載されていると述べました。この容量パーセントと重量パーセントの違いについて説明します。
アルコール系消毒剤は、その有効成分であるアルコール(エタノール)と水を一定の割合で混ぜたものです。この時、その混合する割合を体積の比で示したものが容量パーセント、重さの比で示したものが重量パーセントとなります。体積は英語でvolume、重量はweightなので、それぞれvol、wtと省略し、vol%、wt%と表示されることが多いです。
表1に、重量パーセントと容量パーセントとの換算値をまとめました。
たとえば、容量パーセントで76.9vol%は重量パーセントで70wt%に相当します。
容量パーセント(vol%) | 重量パーセント(wt%) | 備考 | |
30 | 24.68 | ||
36.17 | 30 | ||
40 | 33.37 | ||
47.32 | 40 | ||
50 | 42.49 | ||
57.83 | 50 | ||
60 | 52.15 | ||
65 | 57.21 | ||
67.69 | 60 |
⇩60wt%(67.69vol%)より高濃度のアルコール溶液は消防法上危険物(第四類・アルコール類)に分類 |
|
70 | 62.44 | ||
72.38 | 65 | ||
75 | 67.87 | ||
76.9 | 70 |
薬機法における消毒用エタノールの濃度範囲 (76.9~81.4vol%) |
|
80 | 73.52 | ||
81.27 | 75 | ||
81.4 | 75.15 | ||
85 | 79.44 | ||
85.46 | 80 | ||
89.46 | 85 | ||
90 | 85.69 | ||
93.25 | 90 | ||
95 | 92.42 | ||
96.79 | 95 | ||
99 | 98.38 | ||
99.39 | 99 | ||
99.5 | 99.19 | ||
100 | 100 |
(2)アルコール系消毒剤の作り方
一般にアルコール系消毒剤は購入時の状態でそのまま使用することができるので、自らが希釈して使用することは通常ありません。
ここでは、無水エタノール(実際のエタノール濃度は、99.5vol%(99.19wt%)ですが、ここでは100%と仮定します)と水道水で76.9vol%(70wt%)の消毒用エタノール500mlを作ることを考えます。
重要なことは容量パーセントにしても重量パーセントにしても、アルコール濃度はアルコールと水を合わせた全体(溶液と言います)に対する割合(パーセント)だということです。
重量パーセントで作る場合
まず、はかり(重量計)を使って作る場合です。この時は、重量パーセントで考えることになります。
準備するもの
- 無水エタノール(例:一般用医薬品、エタノール濃度99.5vol%)
- 水道水
- アルコールや水を入れる容器(500mlが入るもの)
- はかり(重量計、500gが測定できるもの)
①計量用容器を重量計に乗せ、ゼロ合わせをする。
②無水エタノール350gを計量用容器に入れる。
③水道水を全体の量が500gになるまで加える。
これで、アルコール350gが溶液全体(500g)に含まれることになり、70wt%のアルコール消毒液ができあがりです。
容量パーセントで作る場合
重量計がない場合は、計量カップで調製することになります。この時は、容量パーセントで考えることになります。
準備するもの
- 無水エタノール(例:一般用医薬品、エタノール濃度99.5vol%)
- 水道水
- 計量カップ(500mlが計量できるもの)
70wt%のエタノールは76.9vol%に相当(表1)するので、500mlの消毒用エタノールを作る場合は、500ml×0.769=384.5mlの無水エタノールが必要です。
従って、
①無水エタノールを計量カップに384.5ml(約385ml)のメモリまで加える。
②その後、無水エタノールを加えた計量カップに水を500mlのメモリまで加え、全量を500mlとする。
これで、アルコール384.5mlが水溶液全体(500ml)に含まれることになり、76.9vol%(70wt%)の消毒用アルコールができることになります。
これは、余談になりますが、アルコールと水を混ぜる場合、アルコールと水の混ぜる前のそれぞれの体積を合わせたものより、混ぜた後の体積は少し小さくなります。従って、容量パーセントで作る場合の②の操作を行わず、水の体積を計る(この場合、出来上がりの水溶液の全体量(500ml)から加える無水エタノールの384.5mを引いた残りの115.5mlをカップで計る)、無水エタノールに加えると全体の体積は500mlよりも少なくなっています(エタノール濃度は、76.9vol%より多少濃くなっています)。重量パーセントでつくる場合は、水とエタノールを混ぜても重さは変わらないので、エタノール350gに水を150g加えても問題ありません。
2. 塩素系消毒剤
(1)塩素系消毒剤の濃度の表し方
次亜塩素酸ナトリウム水溶液や塩素系漂白剤も、消毒剤としてよく使用されています。いずれも、成分として含まれる塩素が消毒効果を持つもので、ここでは、塩素系消毒剤と言います。
塩素系消毒剤は、特に、ノロウイルス等のエンベロープと呼ばれる脂質膜を持たないウイルスは、アルコール系消毒剤が効きにくいため、よく利用されています。家庭では、塩素系漂白剤を使用することが多いと思います。
塩素系消毒剤は一般に高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液や塩素系漂白剤を使用時に希釈して使います。商品の成分表を見ると、塩素濃度はパーセントで記載されています。一方、実際に塩素系消毒剤を使用する場合の濃度はppmで表記されていることが多いかと思います。また、厚生労働省から発出されている「大量調理施設衛生管理マニュアル」ではmg/Lで表示されています。これらの関係について、表2に示しました。
mg/L | ppm | パーセント(%) |
100,000mg/L | 100,000ppm | 10% |
10,000mg/L | 10,000ppm | 1% |
1,000mg/L | 1,000ppm | 0.1% |
100mg/L | 100ppm | 0.01% |
10mg/L | 10ppm | 0.001% |
1mg/L | 1ppm | 0.0001% |
*1:パーセントあるいはppmの値は、厳密にはmg/Lの値とは異なる。
パーセントは、全体を100とした場合の割合であるのに対して、ppmはparts per millionを省略したもので、全体を100万とした場合の割合です。すなわち、1%は10,000ppm、1ppm=0.0001%となります。
ここまで読んでいただいた読者には、「この場合のパーセントは重量比なのか体積比なのか」という疑問が生じた方もおられるかと思います。もしそうであれば、もはや、あなたは「濃度マスタ―」です。
結論から言いますと、質量比なのか、体積比なのかは、明示されていない限り分かりませんが、液体の場合、%やppmは重量比が一般的であるとされています。重量比の場合、1ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液とは、1kg(=1,000g=1,000,000mg=100万mg)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に1mgの次亜塩素酸ナトリウムが含まれていることになります。
一方、1mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液とは次亜塩素酸ナトリウム水溶液1リットル中に1mgの次亜塩素酸ナトリウムが含まれていることを意味します。1リットルの水溶液の重量は約1kg(約1,000,000mg)なので、1mg/Lは約1,000,000mgの次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に次亜塩素酸ナトリウム1mgが含まれていることになります。つまり、水の比重は厳密には1ではないので、完全に同じではありませんが、1mg/L≒1ppmと考えて差し支えありません。
mg/Lは体積(1リットル)全体における質量(mg)の割合なので、wt/vol%と表示されることもあります。日本薬局方(薬機法)では、wt/vol%で表記されています。
(2)塩素系消毒剤の希釈の方法
厚生労働省や自治体のホームページでは、塩素系消毒剤の希釈の方法としてペットボトルやそのキャップを用いて希釈する方法がよく掲載されています。もちろん、それらに従って、希釈していただければいいのですが、基本的な知識を持っていると臨機応変に対応できます。
ここでは、5%の塩素系漂白剤を用いて、250ppmの塩素系消毒剤を作る場合を考えてみます。
5%は50,000ppmなので、50,000÷250=200で、200倍希釈することになります。つまり、5%塩素系漂白剤1mLに対して水を約200mL(正確には199mL) を加えます。
塩素系消毒剤は、一般的には、表3に示したように、使用目的に応じて、消毒剤として使用する際の濃度が変わります。この点も消毒用アルコールとは異なります。
目的 | 塩素濃度(ppm) | 塩素濃度(%) |
日常の机、環境表面の消毒 | 200~300ppm | 0.02~0.03% |
汚染時のトイレの消毒(ノロウイルスの不活化) 嘔吐物の処理(ノロウイルスの不活化) |
1,000~5,000ppm | 0.1~0.5% |
新型コロナウイルスの不活化を目的とした環境の消毒 | 500ppm | 0.05% |
(3)塩素系消毒剤を使用する際の注意点
塩素系漂白剤の使用説明書には、使用上の注意点が記載されています。その主なものは、以下のとおりです。
白無地の衣類に使用する:色物の衣類に使用すると塩素の脱色作用により色落ちする場合があります。また、一部の樹脂加工された衣類では、塩素が反応して、黄変する場合があります。
酸性タイプの洗剤とは一緒に使用しない。塩素系漂白剤はアルカリ性ですが、酸性の洗剤を混ぜると酸性側に傾き、有害な塩素ガスが発生する場合があり、危険です。
これらの注意点は、塩素系消毒剤として使用する場合も同じです。それらに加えて、
原則として、使用する際に希釈して使用する:希釈して放置すると、有効塩素(殺菌作用を持つ塩素)が減少し、殺菌作用が弱まります。
保存する場合は、作成日時、濃度を明記し、清潔な容器に入れて冷暗所で保管する:作り置きが必要な場合は、作成日時、濃度を明記し、清潔な容器に入れて冷暗所で保管します。お子さんがおられる家庭では誤飲しないように、保管場所には注意してください。
著者

野田 衛先生
麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問
<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長
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