食料生産とSDGs(1)日本・世界の食料生産事情
私たちの食事は、農・畜産・水産業などの生産者の皆様、食品関連事業者(食品メーカー、卸売、小売、飲食店等)の方々によって成り立っています。どれだけ時代が変わっても、人が生きていくために、安定した食料生産は不可欠です。
今回は、2回にわたり、日本や世界の食料生産を取り巻く現状や課題、課題解決に向けた取組などについて、SDGsの視点も踏まえて紹介します。
1. 食料生産とSDGs
食料生産について
「食料生産」という言葉について明確な定義はありませんが、食料自給率(日本の食料供給に対する国内生産の割合)を算出する際に使用する「食料需給表」には、米や野菜、果物、肉、乳製品、魚介などが掲載されています。
このようなことからも、「食料生産」とは農業や漁業による生産や漁獲を指すことが一般的です。
(参照)農林水産省 食料自給率とは
SDGsとのかかわり
食べることは「生きる」ために必要なことです。食料生産は、様々な人間活動や世界の諸問題に関わってきます。
まず、目標2「飢餓をゼロに」の達成に安定した食料生産は欠かせません。
そして、安定した食料生産を行っていくには、生産するための環境や技術が必要です。そこで、
目標6「安全な水とトイレを世界中に」
目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
目標13「気候変動に具体的な対策を」
目標14「海の豊かさを守ろう」
目標15「陸の豊かさも守ろう」
なども関わってきます。
また、食品ロスの問題から、目標12「つくる責任 つかう責任」も外せません。
このように、食料生産は、SDGsの目標の多くに関わっているのです。
2. 日本の食料生産事情
日本の食料自給率は低値で推移しています。農林水産省の調査によると、2020年度の食料自給率(概算値)は、カロリーベース(※1)で約37%、生産額ベース(※2)で約67%でした。
※1 基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目して、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標
※2 経済的価値に着目して、国民に供給される食料の生産額(食料の国内消費仕向額)に対する国内生産の割合を示す指標
(参照)農林水産省 令和2年度食料自給率・食料自給力指標について
食料自給率は評価が難しい数字です。
日本は、カロリーベースでも生産額ベースでも、主要先進国と比較すると食料自給率が低い水準にあります。自給率が100%を超えている国であっても、多種多様な食品が国際間取引され、品目によっては輸入に頼っている場合もあるでしょう。また、自給率の低い日本ですが、農林水産省では食品の輸出拡大にも取り組んでいます。
(参照)農林水産省 世界の食料自給率
農林水産省 農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略の進捗
現在の日本は自国で自給を満たす食料生産を行っておらず、輸入に大きく頼っている状況です。一方で国際間取引(輸出)用の生産も行われています。
農業従事者、漁業就業者の減少
日本では、農業従事者や漁業就業者が減少傾向にあります。
農林水産省の調査によると、農業従事者は2015年から2020年にかけて約45万人減少しています。また、水産庁の調査では、漁業就業者が2003年から2017年にかけて約8万人減少していることが分かっています。国内における食料生産の担い手が減ってきているのです。
(参照)農林水産省 2020年農林業センサス
農業協同組合新聞 農業従事者 5年で46万人減
水産庁 漁業就業者をめぐる動向
3. 世界の食料生産事情
日本以外の主要な先進国は、概ね日本より食料自給率が高い傾向にあることは前述しました。中には、アメリカやカナダ、オーストラリアなどのように、自給率が100%に近い、または100%を超えている国もあります。この背景には、各国の農業政策の違いや、農業の大規模化・機械化・効率化率が影響しているかもしれません。
(参照)農林水産省 海外農業情報
食のグローバル化が進んだ現在、国内のスーパーでは、アメリカやオーストラリア産の肉や中国産の野菜などをよく目にします。パンなどの原料となる小麦に関して言えば、日本は8割以上を輸入に頼っています。
(参照)農林水産省 食料需給表
国内であまり生産されないものを輸入に頼るのは当然ですが、ここで注目したいのは「外国へ大量に輸出できる食糧を生産している国もある」ということです。大量に単一、もしくは少ない品目の食料を生産し、世界に向けて取引しているのです。
農林水産省の資料によると、世界の穀物生産量は年々増加していて、2020年度から21年度にかけての穀物生産量が27.1億トンと過去最高になる見込みです。
世界全体では十分な量の食料が生産されているにも関わらず、一方で、世界には飢餓で苦しむ方がたくさんいます。FAO(国際連合食糧農業機関)の調査によると、世界の飢餓人口は8億人を超えていて、世界の約10人に1人が飢餓状態にあり、特にアジアやアフリカで多く見られるそうです。
このことから、食料生産を取り巻く現状は、世界が抱える食料問題であり、SDGsの目標1「貧困をなくそう」にも深く関わっているのです。
4. 「食料生産」が抱える課題・問題
ここでは、食料生産が抱える課題や問題に触れていきます。日本および世界全体の2つに分けて紹介します。
日本
日本においては、食料生産の「担い手」の確保が重要な課題です。
日本国内の農業や漁業従事者が減少の一途であることは前述しました。従事者の数を増やして増やす(減らさない)ことも重要ですが、日本の農業の形を時代に合わせて変えていくことも大切です。
農林水産省は、食料自給率向上のために必要なこととして「担い手の育成・確保」「農業の大規模化」「スマート農業の導入」などをあげています。
(参照)農林水産省 令和2年度食料・農業・農村白書 食料自給率と食料自給力指標
世界
世界全体で見ても多くの課題があります。その一部を紹介します。
穀物需要の増加と変化
バイオ燃料の需要が高まっていることも、世界の食料問題に大きくかかわっています。バイオ燃料は、有機物を原料にして作られる燃料のことを言います。原料は、穀物や生ごみ、木など様々で、石油のように地下から掘り出すのではなく、地上で生産・発生するものから作るため、二酸化炭素の総排出量が増えないクリーンな燃料として注目されています。
(参照)出光興産株式会社 バイオ燃料とは
日本においても、バイオ燃料について触れられている法律があります。
このバイオ燃料、とうもろこしやサトウキビなどの穀物も原料となるため、バイオ燃料の需要増加に伴い、バイオ燃料に使われる穀物の割合も増えています。2016年には、アメリカで生産されたとうもろこしの約3割がバイオ燃料に使われています。
(参照)農林水産省 我が国における食料問題の現状と課題(PDFファイル)
また、途上国も含めた各国で肉類の需要が増えていて、牛や豚、鶏などの飼料としての穀物需要も高まっています。
(参照)独立行政法人 農畜産業振興機構 絵で見る世界の畜産物需給
「食べる」目的以外の穀物需要が高くなった影響で穀物の価格が高騰し、穀物を原料とする食品が値上げになったケースもあります。
水資源
食料生産には水が不可欠です。食料の多くを輸入に頼っている日本は、間接的に大量の水を各国から輸入していることになります。
(参照)環境省 バーチャルウォーター
外務省 バーチャル・ウォーター(仮想水)ではかる日本の海外食料依存度
日本は水の豊かな国ですが、世界を見れば水資源が乏しい地域もあります。遠い国の水不足が日本の食卓に打撃を与える、ということは十分起こりうることです。
以上、日本や世界における食料生産事情や、課題・問題などを紹介しました。次回は、「持続可能な食料生産」を目指した取り組みを紹介します。
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