食料生産とSDGs(2)持続可能な食料生産
安定した食料の生産は、私たちが生きていくために必要不可欠です。
しかし、近年の気候変動や食料需要の変化に伴い、食料生産の形も変化しています。食料の多くを輸入に頼る日本は、その変化によって大きな影響を受けることが懸念されます。安定して食料を確保していくためには「持続可能な食料生産」の実現が重要なポイントとなります。
持続可能は英語で「Sustainable(サステナブル)」。まさにSDGsです。
前回は、日本や世界の食料生産事情やそれを取り巻く課題や問題を紹介しました。
>>食料生産とSDGs(1)日本・世界の食料生産事情
今回は、持続可能な食料生産の実現に向けての取り組みなどについて紹介します。
1. 持続可能な食料生産とは
SDGsの目標2「飢餓をゼロに」では「飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する」とあります。
また、目標14「海の豊かさを守ろう」では、目標に紐づくターゲットの中で、水産資源の回復や、海洋資源の持続的な利用などについて挙げられています。「水産(海洋)資源」の中には、私たちが口にする魚介類も含まれます。
このように、SDGsにおいても、持続可能な食料生産を目標のひとつとしています。つまり、持続可能な食料生産は世界全体の課題と言えるのです。
(参照)外務省 SDGグローバル指標
では、「持続可能な食料生産」とは具体的に何を指すのでしょうか。ここでは農林水産省が示している「みどりの食料システム戦略」を紹介します。
みどりの食料システム戦略
「みどりの食料システム戦略」は、農林水産省が2021年5月に打ち出した政策です。
大規模自然災害や地球温暖化、生産者の減少、食料需要の変化などに直面する中で、日本の食料生産力や持続性の向上実現に向けての目標などが明記されたものです。対象は、食のサプライチェーン(生産から流通、消費まで)全体に及びます。
この戦略の目指す姿や方向性には、「輸入から国内生産への転換(肥料・資料・原料調達)」や「生産者のすそ野の拡大」のように、日本の食料生産力向上(≒食料自給率向上)のためものもあれば、「食料生産の脱炭素化」「食品製造業の労働生産性向上」「化学肥料の提言」など、環境や社会の面からアプローチするものもあります。
農林水産省は、「みどりの食料システム戦略」の策定後、計画の実現に向けた会議体「持続可能な食料生産・消費のための官民円卓会議」を設置しました。この会議は、食の生産や加工、流通、消費に関わる企業や団体が、持続可能な食料生産などについての情報・意見交換し、今後の行動について話し合うもので、2021年12月に第1回が開催されました。
このように、行政の声掛けで業界関係者を巻き込んだ動きも起きています。
(参照)農林水産省 持続可能な食料生産・消費のための官民円卓会議
続いては「持続可能な食料生産」を目指した取り組みを紹介します。
2. 日本における取り組み
日本国内で行われている持続可能な食料生産に関わる取り組みの一部を紹介します。
生産力・自給率向上
農家の収穫作業負荷軽減
ケチャップやトマトソースなど、トマトの加工食品で有名な「カゴメ株式会社」ではトマト農家への支援を行っています。
トマトの主な収穫時期は真夏であるため、肉体的な負担が大きい作業です。そこで農業機械メーカーと国内の畑に合ったトマト収穫機を共同開発し、さらに、トマト収穫期には収穫作業を行う人員の派遣を行うなど、農家の作業負担軽減を図っています。
これらの取り組みによって、既存の生産者の離農抑制や新規就農者の増加などを目指しています。
(参照)&カゴメ トマト栽培の負担を軽減するサポートで、農業を豊かに
規格外農産物を活用した商品販売
飲食店の運営や野菜のネット販売などをしている「株式会社Connect Farm」は、大きさや見た目が一定の基準に達しておらず市場に出回らなかった、いわゆる「規格外農産物」の活用に力を入れています。
近年、大雨や猛暑などの天候不順などによって規格外農産物は増加傾向にあり、生産者の悩みの種になっています。
そんな生産者を支援するため、同社が運営する八百屋カフェ「和合堂」で規格外の野菜を使用した料理や飲み物をメニューに取り入れて、消費者の規格外農産物への意識の変化などを図ろうとしています。この取り組みは、食品ロスの削減に繋がります。
(参照)株式会社Connect Farm
環境に関わる取り組み
大豆の活用を拡げて環境負荷低減
植物性油脂や大豆加工素材、それらを活用した食品の開発・製造・販売などを手がけている「不二製油株式会社」では、大豆を活用した植物性食品(※)に力を入れています。
※野菜や穀類、豆類などの食材や、それらを加工した食品
畜産は温室効果ガスの発生などによる環境負荷が高いことが、近年、問題視されており、栽培に当たって比較的環境負荷の小さい植物性食品が注目されています。
不二製油では、大豆のたんぱく質を肉のような食感に仕上げた「大豆ミート」や、豆乳をチーズやホイップクリームのように加工した製品などの開発に力を入れることで大豆の活用の幅を拡げています。
これらの取り組みは、食料生産による環境負荷の低減や食料不足問題の改善が期待されます。
(参照)不二製油株式会社 製品案内 大豆加工素材
不二製油株式会社 大豆で世界が変わる!急拡大する「大豆ミート」市場
農地整備
耕作放棄地の活用
お茶製品でおなじみの「株式会社伊藤園」では、茶産地の育成に力を入れています。その中の事業の1つが、日本国内の耕作放棄地などを活用した、大規模な茶園の造成事業です。
茶栽培を行おうとしている事業者や自治体へ技術やノウハウを提供するなどの支援を行い、そこで生産された茶葉は伊藤園が買い取る形です。
日本国内で増え続けている耕作放棄地を有効活用でき、大きな茶園が新たにできることで地域での雇用創出も期待できる取り組みです。
(参照)株式会社伊藤園 新産地事業
ここまで、日本での取り組みを紹介しました。
次は、(日本を含めた)世界全体で取り組まれている、持続可能な食料生産を目指した動きを紹介します。
3. 世界全体の動き
持続可能な食料生産へ転換していくことは、世界全体の課題です。その課題解決のために進められていることを紹介していきます。
スマート農業
スマート農業とは、ロボットや情報通信の技術を活用した農業を指します。
収穫の機械化だけでなく、水やりなや肥料散布などの自動化、コンピューターを使った生育や病害の予測なども行い、農業の効率化や省力化、品質向上などを図ることが出来ます。
(参照)農林水産省 スマート農業
ドローンを使って農薬を撒くほか、上空から作物の生育や土の状態を確認するなどして色々なデータを集めて、農地や農作物の状況分析に活用しています。ドローンで雑草の多い場所を見つけると、自動で草刈りロボットが出動して草を刈る、というものもあります。
そのほか、大きなビニールハウスの中で、人が24時間体制で環境を管理し、外の天気とは関係なく、農薬を使うことなく、安定的に農作物を生産している例もあります。
日本より国土も農地面積も狭いオランダは、スマート農業を積極的に取り入れることで、大きく生産量を伸ばしています。
フェアトレード食品
「フェアトレード(公正な取引)」は、主に途上国で生産されるものを適切な価格で買い、生産者や労働者の収入向上と生活改善を目指す商品取引です。(フェアトレード製品は食品に多いですが、食品だけを指すものではありません)
フェアトレードという概念は、1940年代からあったものですが、フェアトレードと「持続可能性」に共通する点が多いことから、SDGsが採択されて以降、大きな注目を浴びるようになりました。
途上国で作られる食料の中には、環境破壊や劣悪な労働環境、児童労働などが背景となっているものもあります。そういった製品を避け、社会的・環境的に適切な状態で作られたものを積極的に購入することで、食料生産の持続可能性に寄与することが期待できます。
フェアトレードの基準は「国際フェアトレードラベル機構」が定めていて、基準を満たした製品にはそれを示すラベルが貼られています。
4. おわりに
2回に渡って、食料生産とSDGsについて紹介ました。
食料に恵まれた環境にいると気が付きにくいですが、食料生産も色々な課題を抱えていることをご紹介しました。そして、その多くは、貧困、飢餓、環境などSDGsの目標にも関わってきます。
私たちがその課題をより意識して、少しでも行動を変えていくことで、SDGsの達成に繋げていきましょう。
Written by
株式会社町田予防衛生研究所
町田予防衛生研究所は、食の安全に関わる各種検査やコンサルティングなど幅広く商品・サービスを取り揃え、ワンストップで食の安全をサポートする企業です。
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