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ノロウイルスの汚染はどのようにして起こる?(その2:嘔吐物からの汚染)

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1. はじめに

前回、ノロウイルスのトイレでの汚染についてお話しました。今回は、もう一つの重要な汚染経路である、嘔吐物からの汚染についてお話します。

ノロウイルス感染における特徴的な症状として、嘔吐があります。子供の場合、特に乳幼児の場合は前触れもなく、突発的に嘔吐を発症します。その結果、衣服だけでなく、机や椅子、部屋の絨毯など周りの環境は嘔吐物で汚れてしまいます。子供は大人と比べて嘔吐を発症しやすいこともあります。

大人の場合は、嘔気を催した時、トイレに駆け込むと思います。しかし、場合によっては、トイレまで我慢することができず、部屋の中や廊下で嘔吐してしまうことも稀ではありません。

嘔吐物の中には大量のノロウイルスが含まれています。そのため、環境を汚染した嘔吐物が重要なノロウイルスの感染源になるのです。

2. 嘔吐物からの汚染

嘔吐物からのノロウイルスの汚染は、以下のような様々な経路で起こります。

(1)嘔吐物が汚染した環境からの接触感染

嘔吐物に含まれるノロウイルスは、適切な消毒を行わず、清掃しただけでは、たとえ見た目は綺麗に拭き取っても、感染力を保持したまま、残っています。

他の人の手指が汚染箇所に触れると手指が汚染され、汚染した手指で口周りを 触ると感染に繋がります。また、汚染した手指でドアノブ、パソコンのキーボードなどを触ると、それらが汚染を受けます。そして、その汚染したドアノブ等をさらに他の人が触ると、その方の感染のリスクにもなります。これらは、ノロウイルスのトイレでの汚染で述べた接触感染です。

(2)嘔吐物が汚染した部屋における塵埃感染

環境によっては嘔吐物をきれいに取り除くことが難しいこともあります。その代表的なものが、カーペットや絨毯です。カーペットや絨毯は一般的に大きいため、洗濯が難しく、そもそも、建物の構造上、移動させることが難しい場合もあります。

また、嘔吐物に含まれているノロウイルスを死滅(不活化)させるためには、通常、次亜塩素酸ナトリウムや家庭用塩素系漂白剤の使用が推奨されています。しかし、それらに含まれている塩素には殺菌作用とともに漂白作用もあるため、これらを使用することが困難な場合が少なくありません。高価なカーペットや絨毯では、塩素系消毒剤の使用をためらっても致し方ないところもあります。

これらの理由から、カーペットや絨毯に嘔吐した場合、不活化させるための適切な処理が行われず、ノロウイルスが生残することになります。

生残したノロウイルスは乾燥し、チリやホコリとともに空気中に舞い上がります。その空気中に漂っているノロウイルスを吸い込むことにより感染が起こります。このような経路による感染を、塵埃感染と言い、広い意味で空気感染に含まれます。塵埃感染と推定されるノロウイルス集団感染がホテルで発生しています(出典1、2)

(3)口腔内に残存したノロウイルスの飛沫感染

嘔吐した際に、口腔内には残った嘔吐物とともにノロウイルスが残存しています。嘔吐した後、通常はうがいを行い、口腔内をきれいにすると思います。しかし、通常のうがい程度では口腔内のノロウイルスを除去することは困難です。

表1は、嘔吐後のうがい液の検査結果を示したものですが、うがい液10mlあたり約3,000個から約100万個のノロウイルスが検出されています(出典3)。さらに嘔吐してから20時間程度経過した時に採取されたうがい液からもノロウイルスが検出されています。

表1 嘔吐後のうがい液からのノロウイルスの検出状況
患者 A B C D E
ウイルス量
(個数/うがい液10ml)
470,000 11,000 220,000 1,100,000 3,100
嘔吐後採取までの時間 20時間50分 3時間 6時間 5時間30分 1時間
出典3から引用

ノロウイルスが口腔内に残存していると、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどの呼吸器系のウイルス感染症と同じように、おしゃべりなどにより唾液が飛沫となり飛沫感染を起こす危険性があります。事実、口腔内に残存していたノロウイルスが原因と推定された集団感染症が発生しています。

また、抱っこしている赤ちゃんが急にノロウイルス感染で嘔吐した場合、直接飛沫を浴び、感染を起こす危険性もあります。

3. 吐き気を催した時の行動

吐き気を催した時、多くの大人はトイレに駆け込み、便器に嘔吐すると思います。基本的にはそれで問題ありませんが、ノロウイルス感染に伴う嘔吐は突発的に起こることもあり、トイレに行くまで、我慢できないこともあります。そのような時に意識していただきたいことは、以下の点になります。とっさにできない場合もありますが、ノロウイルスのトイレでの汚染で述べたように、日頃から意識しておくことが大切です。

(1)ノロウイルス感染による嘔吐の可能性を疑いましょう。

嘔吐の原因は、必ずしもノロウイルス感染だけではありませんが、お腹の違和感や吐き気を催したら、ノロウイルスの感染を疑ってください。その上で、

(2)嘔吐物の処理をどうすれば楽にできるかを考え、適切に行動しましょう。

嘔吐したくなる場面や場所は様々です。その状況に応じて、とっさに対応することが大切です。極めて常識的なことですが、一般的には以下のようなことになります。

①カーペットや絨毯などの上は避ける

上述のように、カーペットや絨毯は嘔吐物を適切に処理することが難しく、その後、接触感染や塵埃感染を起こす危険性が高くなります。タイルやフローリングの板の上、場合によってはテーブルの上など、表面が平滑で、処理が容易な場所や物の上に移動しましょう。

②できるだけかがむ

立ったまま嘔吐をすると嘔吐物が拡散し、広範囲を汚染してしまいます。できるだけかがんで、嘔吐物の汚染が広がらないようにしましょう。

③ゴミ箱やビニール袋などを利用する

近くにゴミ箱等の処理や消毒が容易なもの、あるいはビニール袋や新聞紙等の嘔吐物を包み、廃棄できるものがあれば、それらを使うようにしましょう。

食品取扱施設、高齢者施設など、ノロウイルスによる食中毒や集団感染を起こしやすい施設においては、職員や利用者が嘔吐する可能性があることを前提に、バケツなどの容器やビニール袋などを、あらかじめ準備しておくことも大切です。

4. 嘔吐物の処理

嘔吐物が汚染した衣服や環境の処理方法については、厚生労働省や各自治体のホームページなどを参考に適切に実施してください。また、口腔内のうがいや消毒、トイレ、手指など、嘔吐物が付着した危険性のあるものも併せて消毒してください。

(参考)ノロウイルス食中毒の症状や特徴、予防方法について

 

出典

1)木村博子 他:Mホテルにおけるノロウイルスによる集団胃腸炎の発生について、IASR、28、84-84(2007)

2)吉田徹也 他:塵埃感染の疑われたノロウイルスによる集団感染性胃腸炎事例、感染症誌、 84、702-707(2010)

3)田村 努 他:平成20年度厚生労働科学研究費補助金食品の安心・安全確保推進研究事業「食品中のウイルス制御に関する研究」研究班報告書、145-150(2009)

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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