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ノロウイルスの汚染はどのようにして起こる?(その1:トイレでの汚染)

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1. はじめに

前回、日本語の「感染する」の意味は、英語の「infect:感染させる」と「be infected with:感染を受ける」の両方の意味でも使えるというようなお話をしました。
日本語はむずかしい:ノロウイルスに感染する?

このことは予防対策を考える上でも実はとても大切です。

多くの方は、これまでノロウイルスに感染したことがあると思います。ひどい下痢と嘔吐で大変な思いをされたかも知れません。そのような時、あなた自身が感染源となり他の人にノロウイルスをうつし、感染させていたかも知れません。

ノロウイルスの予防法を知るためには、自分自身が感染した時、どのような場所や場面で他の人に感染させる危険性があるのか?ということを理解しておくことが重要になります。

そのことで、他人に感染させないための行動を身に着けることができます。みんながそのような行動をとることができれば、感染機会が減少し、感染者を減らすことにもつながります。

今回は下痢をした際のトイレの汚染がどのように起こるかをみてみましょう。

2. トイレでのノロウイルスの汚染の起こり方

ひどい下痢の時は、一刻も早く用を足したいと、誰もが思います。しかし、勢いよく用を足すと、下痢便が便器の内側だけでなく、便座回りやお尻にも付着してしまいます。

表1表2出典1)は、冬季の公共施設のトイレについてノロウイルスの汚染状況を調べたものです。便座裏では38検体中7検体(18%)からノロウイルス(遺伝子RNA)が検出された他、ペーパーホルダーからも36検体中1検体(3%)から検出されています。

表1 公共施設のトイレのノロウイルス汚染状況

表2 ノロウイルスの汚染量と遺伝子型

ペーパーホルダーにノロウイルスが汚染した理由はいくつか考えることができますが、最も可能性が高いのは、トイレットペーパーでお尻を拭いた際に手指が汚染され、その汚染された手指でペーパーホルダーを触ったことです。

勢いよく下痢をするとお尻の広範囲に便が付着し、お尻を拭く際にトイレットペーパーではなく手指を汚染する危険性が高くなります。

は下痢をした際にトイレットペーパーで拭かずに、そのままお尻に押し当てた際の下痢便の付着部を模式的に示したものですが、肛門部から10㎝程度離れた場所にも下痢便が付着していました。

このことを知らずに、お尻を拭いたり、衣服を整えたりすると、手指、衣服、トイレ環境等を汚染させてしまう危険性があります。


図 下痢時にお尻を拭いた後のイメージ

また、下痢便は水分を多く含むため、トイレットペーパーを重ねて使用しても、手指まで浸透していた経験がある方もおられると思います。そのような場合にも手指が下痢で汚染する危険性があります。

さらに、ウォシュレットを使用すると、下痢便をある程度流し落とすことができますが、その一方で、しぶきが便座やお尻の広範囲に飛び散り、勢いよく下痢をした場合と同じように、便座やお尻を広範囲に汚染することになります。

以上のような行動により、手指や裾回りが汚染された結果、ペーパーホルダーにノロウイルスが汚染したと考えることができます。

ひとたび手指等にノロウイルスが付着すると、その後、ドアノブ、水道の蛇口などの手指が触れる場所は同じようにノロウイルスの汚染が起こることになります。

3. 公衆トイレはノロウイルスの汚染の宝庫?

最近の公衆トイレはとても綺麗で、アメニティー空間ともいえる場所になっています。しかし、表1でみたように、特に冬季はノロウイルスが汚染していることがあります。

もし、あなたが公衆トイレで下痢をして便座などを汚してしまった場合、どうされますか? 多くの方は、次に使う方のことを思い、トイレットペーパーで汚れを拭き取り、なにもなかったように綺麗にすると思います。しかし、見た目は綺麗になっても、拭き取っただけではノロウイルスが残っている可能性があるのです。

当然、次に使う方はそのことを知りません。ノロウイルスに汚染されたペーパーホルダー、ドアノブ等を触ることで、手指が汚染され、その手指で口回りを触ることでノロウイルスに感染することになります。

4. どう考え、行動すればよいか?

ではどのように考えて、行動すればいいのでしょうか?まずは、次のことを十分に認識しておくことが大切です。

①公衆トイレはノロウイルスが汚染していると思って利用しましょう。

不特定多数の人が利用する公衆トイレや会社などのトイレは、特にノロウイルスが流行する11月から5月頃は、ノロウイルスが汚染している可能性があると思って利用してください。

②お尻を拭く手指は汚染すると思いましょう。

どんなに注意深くお尻を拭いたとしても、手指や袖回りにはノロウイルスが付着する可能性があると思ってください。

その上で、次のように行動することが大切になります。これらは必ずしも常に行う必要はありませんが、いざ下痢の際に行おうとしてもなかなかできません。日常的に心掛けることが大切です。

③汚染を起こしにくい排便を心掛ける。

下痢の際は特にお腹がいたく、急いで排便したくなります。しかし、そこを我慢して、できるだけゆっくりと排便することを心掛けましょう。

④お尻を拭く手は、お尻を拭いた後は手洗いをするまでは、環境に触れない。

お尻を拭く手は、ひとたびお尻を拭く作業を行った後は手洗いをするまでは、ペーパーホルダー、ドアノブ、水道の蛇口などは触れないようにします。

トイレットペーパーを巻き取る際には、お尻を拭く手がロール部分やペーパーホルダーには触れないようにします。(お尻を拭く手の反対の手(以下、「反対の手」と記載します)でトイレットペーパーを垂らしてから、お尻を拭く手も使用して巻き取る)。

水を流すためのスイッチやバー、個室のドアノブ、水道の蛇口などは、すべて反対の手で触れて、作業するようにします。

もちろん、個室の構造やトイレットペーパーの配置により、そのような作業ができない場合もあります。しかし、汚染が起こる可能性を意識し、注意深く作業できれば、環境を汚染させるリスクは下がります。

⑤手洗いは注意深く、念入りに

水道の蛇口は反対の手で操作し、水を流します。水道水の流量は少なすぎても、多すぎてもいけません。少ないと洗い流す効果が下がりますし、多すぎると水しぶきが飛び、周りを汚染する危険性が高まります。

ハンドソープは反対の手で操作し、お尻を拭いた手の平らに消毒液を垂らします。十分泡立てて、手指全体や手の甲を洗い、水で流します。その操作を少なくても2回は繰り返しましょう。

ペーパータオルあるいはハンカチで手を拭き、水分を取り除きます。

消毒液が設置されている場合は、反対の手で操作し、お尻を拭いた手に垂らし、両手全体に広げて、乾燥するまで放置します。消毒液を使用する際も、ペーパータオル等で手を拭き、水分を取り除いた後に行ってください。水分が残っていると消毒液の有効成分が希釈され、消毒効果が減少してしまいます。

⑥下痢の際にはウォシュレットの使用は控える。

下痢の際は、ウォシュレットの使用を控え、下痢便が便座やお尻回りを汚染するリスクを下げましょう。この項目は、下痢でない場合は不要です。

⑦消毒液などを携帯し、汚染を起こした場合は消毒や除菌を行う。

新型コロナウイルス対策で手指消毒用の消毒液や除菌用ウエットティッシュを携帯されている方もおられると思います。便座回りを汚染させた場合は、単にトイレットペーパーで拭き取るだけよりも、拭き取った後に、消毒液や除菌液を使用することで、ノロウイルスの汚染が減り、感染リスクが下がることが期待できます。トイレの除菌用ウエットティッシュを携帯しておくととても便利です。

液体の消毒/除菌液の場合は、便座などの汚染箇所にトイレットペーパーを覆い、その上からを消毒/除菌液を垂らし、しばらく放置することで、効果的に不活化することができます。

除菌用ウエットティッシュの場合は、汚染箇所に広げて一定時間放置します。

(注意)使用した除菌用ウエットティッシュはトイレに流せる(水に溶けやすい)もの以外は、トイレに流さないでください。

ノロウイルスはアルコールに対しては抵抗性が強いため、アルコール性の消毒/除菌剤では不活化効果は限られているので、注意が必要です。最近はアルコール成分の他に、pHを調整したり、ノロウイルスの不活化が期待できる成分を加え、効果を高めている商品も市販されています。商品を選ぶ場合には、その有効性を確認し、ノロウイルスにも効果が期待できるものを選択されるといいと思います。

(参考)ノロウイルス食中毒の症状や特徴、予防方法について

 

出典

1)平成28年度厚生労働科学研究費補助金食品の安全確保推進研究事業「ウイルスを原因とする食品媒介性疾患の制御に関する研究」研究協力報告:谷澤由枝他「ふき取り検体からのノロウイルス検出法の改良及びウイルスモニタリングに関する研究」

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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