SDGsと食品ロス(2)食品ロスの問題点

SDGsと食品ロス(2)食品ロスの問題点
「食べることが出来たのに廃棄される食品」、いわゆる「食品ロス」が世界的に問題となっています。もちろん、それは日本も例外ではありません。2019年度に日本国内で発生した食品ロス量は約570万トンでした。そのうち、工場や飲食店、小売店などから発生する「事業系食品ロス」が約309万トン、家庭から発生する「家庭系食品ロス」が約261万トンとなっています。
(参照)消費者庁 「食品ロス量(令和元年度推計値)の公表」について
世界全体で見ると、年間約13億トンの食品ロスが発生していることが、国連食糧農業機関(FAO)の調査で分かっています。これは、世界で生産された食料の約3分の1が、食べられずに捨てられていることになるそうです。
(参照)農林水産省 食品ロスの現状を知る
前回は、食品ロスの概要や発生要因などを紹介しました。
>>SDGsと食品ロス(1)食品ロスとは?のページへ
今回は、食品ロスの何が問題なのかを説明します。まだ食べられる食品がたくさん捨てられているわけですから、「もったいない」と感じる方は多くいるかもしれません。確かに、それも問題点の1つなのですが、食品ロスによる問題はそれだけではありません。
1. 日本における食品ロスの現状
本題へ入る前に、日本における食品ロスの現状について簡単に説明します。
食品ロスの問題は、SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の中でも解決するべき課題の1つとして明記されています。
SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に紐づいたターゲットの1つに「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。」という文言があります。日本政府も、国内で発生する食品ロスを減らすことは重要な課題であると認識しています。2019年には「食品ロスの削減の推進に関する法律」が作られました(令和元年5月31日交付、10月1日施行)。
(参照)消費者庁 食品ロスの削減の推進に関する法律

この法律では、国や自治体、事業者、消費者が、食品ロスを減らすため果たすべき役割などが書かれています。また、この法律によって、毎年10月を「食品ロス削減月間」に、10月30日を「食品ロス削減の日」とすることになりました。 この法律を受けて、近年、都道府県や市町村などの自治体が、食品ロスの削減を呼び掛けたり、食品ロス削減を進めていくための計画を立てたりするなど、企業や住民に対しての働きかけを活発にしています。
2. 食品ロスの何が問題か?
ここからは食品ロスの問題点を説明していきます。
はじめに、捨てられた食品がどうなるのかについて触れておきます。
捨てられた食品は他のゴミと同じように回収・処理されます。焼却されるものもあれば、リサイクルされるものもあります。
農林水産省の調査によると、食品関係の事業者が出した食品廃棄物は、約9割が肥料や飼料にリサイクルされ、残りの約1割が焼却処分されているそうです。
(参照)農林水産省 食品廃棄物等の年間発生量及び食品循環資源の再生利用等実施率について
一方で、家庭から出る食品廃棄物は、ほとんど可燃ゴミとして処理されています。自治体によっては、住民が生ゴミを分別して、回収後、リサイクルしているところもありますが、割合としてはとても少ないです。
もったいない
「もったいない」だけが問題ではないと初めに書きましたが、食品ロスがもったいないことに変わりはありません。食べるために作られたものが、食べられることなく捨てられてしまうわけですから。食品ロスに限ったことではありませんが、「もったいない」という気持ちを持つことはとても大事です。
SDGsの目標2で「飢餓をゼロに」と言われている一方で、たくさんの食品が捨てられているという現状は、まさしく「もったいない」です。

地球温暖化の原因となる
つながりが無いように見えるかもしれませんが、食品ロスの問題は、地球温暖化にも大きく関係しています。捨てられた食べ物の多くは、可燃ごみとして焼却処分されるためです。
ゴミを燃やすときには、灯油や重油などの燃料を使います。燃料を使うと、地球温暖化の原因と言われている二酸化炭素などの温室効果ガスが発生します。また、生ゴミをはじめとする食品由来のゴミは水分がたくさん含まれているものが多いため燃えにくいことから、燃やすときには、他のゴミと比べて燃料がたくさん必要になります。
食品ロスや食品廃棄物の処理に伴って発生する温室効果ガスは、世界全体で排出される温室効果ガスの約8%を占めると言われています。
(参照)厚生労働省 サステナブルな食に関する環境省の取組について(PDF)※資料は環境省が作成したものです
このことは、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」に関わってきます。

資源の無駄
田畑や牧場、工場などで食料を作るときには、多くの資源が使われます。特に、水は大量に必要となります。他にも、農作物を作る場合は肥料、畜産の場合は飼料も必要です。つまり、食品ロスの発生は、食料生産に使われた多くの資源を無駄にしてしまうことと変わらないのです。
水資源が豊かな日本で生活していると実感しにくいことですが、世界を見渡すと、日本と比べて食料生産に使えるきれいな水を確保しにくい国や地域が多くあります。
日本は、食品の多くを輸入に頼っています。食品ロスを大量に発生させることは、海外の水資源を無駄に消費してしまっていることにもなるのです。まだ食べられる食品を捨てて、限りある資源を無駄にすることで、地球環境を悪化させ、将来的に私たちの生活から豊かさを奪っていくことになるかもしれません。
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」、14「海の豊かさを守ろう」、15「陸の豊かさも守ろう」達成のためにも食品ロスの削減は必須なのです。

税金の問題
ゴミの処理はタダではありません。燃料代や人件費、焼却設備の整備などに多額の費用がかかります。そして、その費用の大部分には税金が使われています。
企業や店が出すゴミは、「産業廃棄物」または「事業系一般廃棄物」で、ゴミを出した側が処理にかかる費用を負担していますが、家庭から出るゴミ(一般廃棄物)は、自治体が回収して処理しており、その費用は税金です。一般廃棄物の中には「食品廃棄物」や「食品ロス」に分類される食品由来のゴミも含まれています。
環境省の調査によると、2019年度、一般廃棄物の処理に使われた税金は約2兆885億円でした。この数字と、一般廃棄物に占める食品廃棄物や食品ロスの割合をもとにして試算すると、食品廃棄物の処理に使われた税金は約7800億円、その内、食品ロスの処理に使われた税金は約1800億円になるそうです。
(参照)環境省 一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和元年度)について
かなりの額の税金が、食品ロスの処理に使われていることが分かります。同時に、食品ロスを減らすことは、税金の節約になるということです。
「食品リサイクル」が抱える問題
食品リサイクルの話は、今回の本題からは少し逸れますが、食品ロスの問題を学ぶにあたって知っておいた方が良いことなので、ここで触れておきます。
「リサイクル」は良いことです。しかし、少なくとも食品に関しては、必ずしも「リサイクルすれば良い」わけではありません。食品リサイクル特有の問題があるからです。捨てられる食品は、野菜や肉・魚などの生鮮食品、家庭で作った料理の食べ残し、レトルト食品、お菓子など、数えきれない程の種類があります。どれもこれも含まれている成分が違いますし、物によっては大量の塩や油を使っているものもあります。食品をリサイクルする場合、肥料や飼料にして再利用することになりますが、ここでは飼料(家畜などのエサ)を例に挙げて説明します。
食品リサイクルによって作られた飼料は、一般的に「エコフィード」と呼ばれています。飼料は、含まれている成分が一定である方が、家畜などの動物の栄養状態を管理しやすくなります。しかし、エコフィードは、含まれる成分が一定になりにくいです。原料となる食品廃棄物が毎回違うためです。
また、人が食べるものは塩分や油分が多い傾向にあります。それを飼料へリサイクルすると、動物にとっては害になってしまうことがあります。(人間も、塩や油を取り過ぎると害になります)
その他に、水分が多くて保存しにくい、専用の設備が必要などの問題もあります。
そのため、エコフィードは、適切に扱うことが難しく、知識や技術が必要とされています。食品廃棄物をリサイクルして飼料を作っても、品質が良くなかった、動物の体調の関係で食べさせなかった等の理由で、使い切れずに捨ててしまうこともあります。
これは、リサイクルせずに捨てることと同じです。リサイクル自体は良いことですが、「リサイクルするから捨ててもいい」ということにはなりません。まずは、捨てる量を減らすことが重要です。(ゴミ問題全体に言えることです)
以上、食品ロスの問題点を紹介しました。食品ロスが、地球温暖化や税金にも関係してくるというのは驚きではないでしょうか?食品ロスを取り巻く問題を改善するには、食品ロスを減らすことが有効な手段です。
次回は、食品ロスを減らすために、どんな取り組みがされているのか、また、普段の生活の中でできることを紹介します。
>>SDGsと食品ロス(3)食品ロスを減らすための取り組みのページへ
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