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新型コロナウイルス感染症が5類に移行される今、知っておくべきこと

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新型コロナウイルス感染症からコロナウイルス感染症2019へ:今、知っておくべきことアイキャッチ

2023年3月13日からマスクの着用が個人の判断に委ねられるなど、コロナ対策が大幅に緩和されています。
そして、5月8日の連休明けから、感染症法の位置付けが現在の2類相当から、季節性インフルエンザなどと同じ5類となります。
新型コロナウイルスのパンデミックが始まって3年が経過し、ようやく本当の意味で、ウイズコロナの時代を迎えます。
しかし、法的な取り扱いが変わっても、感染症そのものが大きく変わる訳ではありません。
今後新型コロナウイルス感染症と上手に付き合っていくためには、現状を正しく理解しておくことが大切です。

今回は、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に変更される背景についてまとめました。

 

1. 5類感染症に変更される背景

今回、5類感染症に変更される背景には、

① 集団免疫の獲得:国民の多くが、ワクチン接種または自然感染により基礎免疫を得た
 
② ウイルスの性質の変化:第6波以降の主流株であるオミクロン株は、病原性が低下、上気道での増殖性が増加し、季節性インフルエンザウイルスに近い性質になった
 
③ ワクチンや抗ウイルス剤の開発:複数のワクチンが開発され、発症の軽減や重篤化予防が可能になるとともに、抗ウイルス剤が開発され、治療により重篤化が防げるようになった
 
④ 迅速検査法の普及:一般の医療機関で迅速診断が可能となった
 
⑤ 国民の意識の変化:国民が新型コロナウイルスを受け入れつつある


などがあります。以下、これらについて説明するとともに、課題について触れたいと思います。

2. 集団免疫の獲得

これまでの新型コロナウイルス感染者報告数の累計は、3,300万人を超え(2023年4月6日現在)、ある論文(文献1)によると実際の感染者数は報告数の約1.77倍と推定されています。これを踏まえると、約5,800万人程度、すなわち国民の約半数が新型コロナウイルスに自然感染したことになります(一人が2回以上感染することもあります)。

また、高齢者を中心にワクチンの接種が進み、全国民の約78%(4月5日現在)は少なくても1回新型コロナウイルスワクチンを接種しています。

新しい感染症が恐ろしいのは、全国民が免疫を持っていないため、流行が爆発的に拡大し、医療崩壊に至り、感染した場合重症化しやすいことです。しかし、一たび免疫を持つと流行は起こりますが、集団免疫が働き爆発的に増えることはなくなり、感染しても軽症ですみやすくなります。自然感染やワクチン接種により、国民の多くが基礎免疫を得たことから、新型コロナウイルス感染症は、もはや新しい感染症ではなくなったと捉えても差し支えないと思います。

しかしながら、小児や乳幼児においては、ワクチン接種率が低く、感染歴がない人が少なくありません。そのため集団免疫ができておらず、集団感染が起こりやすい状況であることは変わりません。

また、これから、生まれてくる新生児には免疫がなく、生後6か月までは免疫機能が不十分とされています。新型コロナウイルスに自然感染した母親の母乳中には、他のウイルス感染症と同様に抗体(分泌型IgA抗体)が含まれると考えられるため、母乳を飲ますことで、その間は免疫を与えることできると思われます。妊婦さんはご承知おきいただければと思います。

 

3. ウイルスの性質の変化

私たちは、3年の間に8回の新型コロナウイルスの流行を経験しました(図1の上)が、第5波までと比較して、第6波以降、流行は大きく拡大しました。第1波から3波は従来型、4波はアルファ株、第5波はデルタ株が主要流行株でしたが、第6波以降はいずれもオミクロン株と呼ばれるタイプのウイルスが主流です。ウイルスの分析によって、オミクロン株は鼻や喉などの上気道の細胞でよく増殖することが分かっています。つまり、オミクロン株は、鼻や喉で増えやすく、大量のウイルスが鼻や喉から排出されるため感染しやすく、流行も拡大しやすいということです。

一方、死亡率の推移をみる(図1の下) と、第5波までと比較して、第6波以降は死亡率(赤線)が大幅に低下していることが分かります。

新型コロナウイルス新規感染者数および死亡者数と死亡率

新規感染者数:厚生労働省公表の新型コロナウイルス新規感染者数
死亡者数:厚生労働省公表の死亡者累積数から当該日の死亡者数を算出
死亡率:死亡者数を当該日の新規感染者数で除して算出(便宜的な集計値)
死亡者数、新規感染者数は1週間(前後3日を含む7日間)の移動平均値
集計期間(2020年5月12日~2023年2月12日) 
変異株は埼玉県ホームページを参照

図1 新型コロナウイルスの新規感染者数(上図)、死亡者数及び死亡率(下図)の月別推移

 

感染した時期から、デルタ株またはオミクロン株に感染したと推定され、死亡された症例を比較した報告(文献2)によると、年齢の中央値はデルタ株流行期は63歳、オミクロン株流行期は75歳で、高齢者の死亡例が増えています。死亡の主な原因は、デルタ株流行期では「肺炎による呼吸不全」が80%でしたが、オミクロン株流行期では「入院前の合併症の悪化」が約半数を占めています。つまり、オミクロン株感染では、高齢で、合併症を持つというハイリスクの方が多く死亡している、逆に言えばリスクが低い人は死に至ることは少ないということになります。

表1は、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの重症化率などを比較したもの(文献3)です。60歳未満におけるデルタ株流行期の重症化率、死亡率がそれぞれ0.56%、0.08%であったのに対し、オミクロン株流行期ではそれぞれ0.03%、0.01%で、季節性インフルエンザと同程度です。一方、60歳以上でみると、重症化率はデルタ株流行期は5.0%、オミクロン株流行期は2.49%で低下していますが、季節性インフルエンザの0.79%の約3倍です。死亡率も季節性インフルエンザと比較して約4倍となっています。

表1 新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの重篤化率等の比較

 

重症化率

致死率

60歳未満

60歳以上

60歳未満

60歳以上

新型コロナ・

オミクロン株流行期

0.03%

2.49%

0.01%

1.99%

新型コロナ・

デルタ株流行期

0.56%

5.0%

0.08%

2.5%

季節性インフルエンザ

0.03%

0.79%

0.01%

0.55%

文献3から引用

これらのデータから分かるように、オミクロン株はデルタ株より、感染力は増加しているものの、明らかに病原性は低下し、季節性インフルエンザに近くなっています。しかしながら、高齢者の感染では、依然として季節性インフルエンザより重篤化しやすいと言えます。

もう一つの問題に後遺症があります。豊中市の調査(文献4)によると、発症後1か月が経過した時点で、倦怠感、日常生活に支障がある、脱毛等の症状が1.5%前後にみられています。平均年齢は44.3歳で、まさに働き盛りの年齢です。感染したと思われるウイルスはオミクロン株が80%近くを占めていますので、オミクロン株でも後遺症については軽視できません。

今後、強毒化した新たな変異株が出現する可能性もありますが、その場合は、必要に応じて対策の強化等の見直しが行われることになると思います。

 

4. ワクチン、抗ウイルス剤の開発

分子生物学の進歩は目覚ましく、新型コロナウイルスワクチンはパンデミック発生後、わずか1年以内に欧米では接種が開始され、我が国でも2021年2月には接種が開始されました。メッセンジャーRNAワクチンと呼ばれる新しいタイプのワクチンであったこともあり、不安を抱く国民もいましたが、順調に接種が進みました。現在では、B型肝炎ワクチンとしてすでに使用されているタイプの組換えタンパクワクチンも承認されています。一方、小児や乳幼児に対するワクチンは承認されているものの、上述のように接種が進んでいない状況です。

治療薬である抗ウイルス剤の開発も進み、これまで薬事承認された治療薬は10種類に上っています。抗炎症薬、抗ウイルス薬、中和抗体薬があり、作用機序は異なりますが、症状の緩和や、重篤化の予防などに使用されます。多くの治療薬は、中等度や重症などの患者やハイリスクの患者に投与されます。重症でなく、また重症化リスクの低い一般の患者に対しての使用が認められているものに「ゾコーバ」という抗ウイルス薬があります。3月31日に一般流通が開始された旨、販売会社から発表され、一般の医療機関で処方を受けることができます(9月までは公費、その後は患者負担)。一方、これまで承認されている薬の有効性については必ずしも十分とは言えず、経口的に服用できる薬も少ない状況かと思います。さらなる、治療薬の開発が必要だと思います。

 

5. 迅速検査キットの普及

迅速検査キットは主に抗原検査と呼ばれるもので、厚生労働省のホームページによると、これまで診断用として承認を受けているキットは16種類に上ります(4月7日現在)。これにより医療機関において速やかに新型コロナウイルス感染症と診断することが可能となるとともに、自宅でも購入した検査キットを用いて簡単に調べることができるようになりました。

検査キットには、①診断用として国の承認を受けたものと、②承認を受けていない研究用のものがあります。医療機関での使用は言うまでもありませんが、自宅で個人的に検査する場合も診断用キットを用いるように、国や自治体は勧めています。

抗原検査キットを使用する場合は以下の点に注意してください。

① 検査キットにより性能(検出感度や特異性)が異なる

一口に、抗原検査キットと言っても、その性能は製品により違います。これは、国の承認を受けている診断用キットであっても同じです。ある報告では(文献5)、検査キットにより検出感度は100倍程度違っています。

② 抗原検査キットは発症時に使用する

抗原検査キットは、PCR検査と比較して、検出感度が低く、ある程度ウイルスが増殖した時期でなければ陽性になりません。必ず、発症した時期に使用するようにしてください。

6. 国民の意識の変化

2020年3月29日にコメディアンの志村けんさんが、同年4月23日に女優の岡江久美子さんが新型コロナウイルス感染に伴いお亡くなりになりました。あれから3年余の月日が流れ、現在の私たちの新型コロナウイルスに対する意識は大きく変化しています。その背景にはこれまで述べたことがありますし、所謂「慣れてきた」と言うこともあるでしょう。

今後、新型コロナウイルス感染症は、「コロナウイルス感染症2019」として5類感染症として扱われます。2類から5類への変更は、マスク着用、換気等の対策を、これまで政府や自治体からの指示に従い、受け身的に行っていたものが、今後は自分から主体的に行うようになるということです。そのためには、個人個人が、感染対策の基礎知識を今一度確認し、必要に応じ正しい予防対策実践することが大切になります。

厚生労働省は、5つの基本として、

1 体調不安や症状があるときは自宅で療養するか医療機関を受診すること

2 その場に応じたマスクの着用やせきエチケットの実施

3 3密を避けることと換気

4 手洗い

5 適度な運動と食事

を呼びかけています。

 

引き続き、感染対策に心掛けましょう。



著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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