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新型コロナウイルス第5波の収束と国民の行動変容との関連性に関する考察

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新型コロナウイルス第5波の収束と国民の行動変容との関連性に関する考察アイキャッチ
ヨケンとは?

町田予防衛生研究所の予研(ヨケン)です。また、ヨケンは、与件(推論や研究の出発点として、与えられた条件=データ)や予見(先を見通す)も意味し、与件(データ)を分析し、これから先を予見し、顧客の皆様、そして国民や社会により貢献できる会社(予研)になることを目指すという思いを込めています。

新型コロナウイルスの2021年夏季の流行である第5波は、8月下旬に全国一様に減少傾向に転じたことから、その理由として種々の要因が指摘されました。その一つに、医療のひっ迫により適切な医療を受けられない不安感などに基づく、国民の行動変容がありますが、それを示す明確な根拠はこれまで示されていません。そこで、第5波の収束と国民の行動変容との関連性を調べるために、まず、Googleトレンドによる検索数の動向から新型コロナウイルスの流行と国民の関心度とを関連性を調べました。その結果、「コロナ」、「PCR」、「自宅療養」、「酸素濃度」などの検索数の動向は感染者数の動向とよく相関し、医療に対する不安を含め新型コロナウイルスや感染予防に関する関心度が流行とともに高まった可能性を示唆する結果が得られました。さらに、その関心(意識)が実際の行動に繋がったかをみるために、「PCR」の検索数と町田予防衛生研究所でのPCR検査件数(原則として、受検者は健康者)の関連性を調べたところ、両者はよく相関し、関心(意識)の高まりが、実際の行動に結び付いた可能性を示唆する結果が得られました。これらの結果は、第5波の減少と国民の行動変容との関連性を示す具体例の一つになると考えられました。

はじめに

新型コロナウイルスの第8波の流行で今後の感染者の増加や医療ひっ迫が懸念される中、流行規模を抑え、早期に収束させるためには、過去の流行を分析し、流行を抑える要因を正しく把握ことが大切です。そこで、2021年の夏季の流行である第5波を例として、国民の行動変容との関連性を調べてみましたので、紹介させていただきます。

 

1. 新型コロナウイルス第5波の流行状況と感染が減少傾向に転じた要因

図1は2020年10月1日から第5波が収束しつつあった2021年9月12日までの新型コロナウイルスの新規感染者数を都道府県別に示したものです。新型コロナウイルスの流行は、第4波までは流行の開始、ピークなどに地域による違いがみられていました。

新規感染者数(厚生労働省公表)は当該日を含め、その6日前からの7日間の平均値を用いた(以下の図3図5も同様)。

図1 都道府県別新型コロナウイルスの新規感染者数の推移(2020年10月1日~2021年9月12日)


都道府県別の新型コロナウイルスの2020年10月1日~2021年9月12日までの新規感染者数の増減の推移やバラつきを示す。上段の図は、前日と比較して感染者数が増加した場合は黄色、減少した場合は青色で示す。中段のグラフは、増減の平均値で1より大きい場合は増加、1未満の場合は減少を示す。下段のグラフは各都道府県の増減のバラつき(標準偏差)で、値が小さいほど、各都道府県での増減が同じ傾向であることを示す。

図2 都道府県別の新型コロナウイルス感染者数の増減の推移とバラつき

2021年6月下旬頃から始まった新型コロナウイルスの第5波は、8月20日に全国の新規感染者数はそれまでで最多となる25,851人を記録した後、減少傾向に転じました。流行開始時期には地域差がありましたが、特にピークから減少に向かう時期は全国で同じような動向を示していました(図1図2)。

そのため、感染者が全国一様に減少傾向に転じた要因について、マスコミでは専門家の意見等が多数報道されていました。その要因として以下のようなことが指摘されていましたが、明確な結論は得られていません。

①ワクチン接種率の向上
②緊急事態宣言等の行政措置
ウイルスの要因(エラーカタストロフ)
④気温、湿度等の環境要因
⑤国民の行動変容

感染症専門医で、新型コロナウイルスに関する貴重な情報をネット上にも多数掲載されておられる忽那賢志先生は「新型コロナ第5波を振り返って 過去最多感染者数と低下した致死率:今後とるべき対策は?」という記事で、「4連休後は、感染者急増や医療逼迫の情報・報道などがメディアなどを通じて多くの人の目に触れることで行動変容が起きたというのが最も考えられる原因です。」と考察されています。ただし、その根拠となるデータは示されていません。

そこで、「国民の行動変容」の関与について、第5波中のweb検索での国民の関心度及び健康者の新型コロナウイルスのPCR検査数の推移を基に検討してみました。

 

2. 第5波流行時の社会的な背景、ワクチン接種率、医療体制

新型コロナウイルス第5波の流行時は、新型コロナウイルスのパンデミックで延期された東京2020オリンピック(2021年7月23日~8月8日)及びパラリンピック(8月24日~9月5日)が開催された時期でした。開催に至る前は、東京五輪、パラリンピックの開催の是非に世論は二分されていました。開催に先立ち実施された各地の聖火五輪リレーの多くは、公道でのリレーから、公園などでの聖火セレモニーに変更・縮小されました。6月下旬に第5波が始まると五輪開催反対の世論が大きくなる中、無観客での開催となりました。

第5波が始まり、感染者数は急激に増加、過去に例のない感染者数に上りました。多くの自治体は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発せられていましたが、東京などでは夜間人口が減少しておらず、さらなる人流抑制を求める報道も頻繁に行われていました(実際には、流行開始前から、夜間人口は少ないレベルで推移していたため、人流はかなり抑えられていた)。

東京都における新型コロナウイルスのワクチン接種率(2回目)を図3に示しました。流行の中心であった20代~40代のワクチン接種率は、8月2日(感染者増加傾向中)で7%以下、8月23日(感染者減少傾向中)で23%以下でした。


東京都資料より作成。
新規感染者数:2021年8月1日~9月15日
ワクチン接種率:2021年8月2日~9月13日(1週毎)、2回接種済の集計

図3 東京都におけるコロナウイルス新規感染者数とワクチン接種率

第5波の流行中に、特に、マスコミで多く取り上げられたのは、医療ひっ迫に関することでした。過去にないレベルでの感染者の増加に伴い、医療機関はひっ迫し、治療を迅速に受けることができないケースも急増しました。マスコミは連日、医療崩壊と言う言葉を用いて、医療現場のひっ迫した現状を伝えました。適切な治療を受けることができず、自宅療養中に、孤独死された方の報道、「新型コロナウイルスに感染されたタレントのNMさんは、自宅療養中に病状が悪化、医療ひっ迫で救急搬送を2度断られた後、ようやく入院、一時集中治療室で治療を受けることができた」などの報道もありました。また、個人で肺の機能をチェックするための、パルスオキシメーター(酸素濃度を測定する装置)の必要性なども伝えられました。

連日、そのような報道が相次いだことから、「自分が感染した場合、症状が悪化しても、迅速に適切な医療を受けることができないのではないか」という不安を抱く国民が増加したと思われます。そのような国民の不安が、各自の感染予防に対する意識を高め、実際に予防に必要な行動に繋がった可能性がある、これが当時の「国民の行動変容」ということだと思います。

 

3. webでの検索ワードを指標とした国民の新型コロナウイルスに対する関心度の分析

国民が行動変容を起こすためには、新型コロナウイルスに対する関心を持つことから始まると思います。

流行の中心であった20~40代の世代の関心度を数値化できるものと言えば、ネット検索があります。そこで、Googleトレンドというアプリを用いて、新型コロナウイルスに関連する単語の検索動向を調べ、流行との関連性を分析しました。

Googleトレンドでは、検索語(例えば、「新型コロナウイルス」)と期間を指定すると、その指定期間内の1日ごとの「新型コロナウイルス」の検索件数の動向を調べることができます(検索件数は、0~100の相対的な数値で示されており、数値が大きいほど多く検索されていることを示します)。

このGoogleトレンドを用いて、表1に示す単語について、2021年6月22日から9月7日までの検索件数を調べてみました。

表1 Googleトレンドで検索件数を調べた単語
コロナ PCR ワクチン デルタ 緊急事態宣言 自宅療養
酸素濃度 医療崩壊 救急 後遺症 孤独死 不審死
マスク 手洗い 換気 オリパラ オリンピック NM(某芸能人)

 

 

縦軸の検索件数はGoogleトレンドによる0~100の相対的な数値(以下の図5、図6、図7も同様)。

図4 新型コロナウイルスに関連する検索語の検索件数の推移

それぞれの検索語の日別の検索件数を図4に示します。これらの検索語のうち、「コロナ」、「PCR」、「自宅療養」、「酸素濃度」、「マスク」が流行パターンに近い検索件数を示しました(図5)。「マスク」は第5波流行前からある程度の件数で検索されていましたが、第5波ではやや流行に遅れて検索数が増加しました(図5)。「オリンピック」は五輪開催中に検索件数が増加しました(図4)。


図5 新型コロナウイルス新規感染者数と各種検索語の検索件数の推移

検索数の増減が感染者数の推移と類似した「コロナ」、「PCR」、「自宅療養」、「酸素濃度」について、全国の新規感染者数との相関性を調べたところ、いずれ相関係数(R)は0.93以上を示し、強い正の相関性が認められました(図6)。


図6 新型コロナウイルス新規感染者数と各種検索語の検索件数との相関性

これらの結果は、第5波の流行時に、新型コロナウイルス、その検査法であるPCR検査、感染した場合の自宅療養や酸素濃度のチェックなど、新型コロナウイルスや感染予防についての関心度が、国民の間で高まったことを示唆すると考えられます。

 

4. 新型コロナウイルスに関する関心から行動へ:健康者のPCR検査の検査数との関係

新型コロナウイルスに対する関心が高まり、それが実際の予防対策に必要な行動に繋がった(行動変容)ことを調べる方法は、人流の集計、外出の自粛等のアンケート、検査キットやパルスオキシメーターの購買数の集計等、いくつか分析方法があると思います。

ここでは、PCR検査に注目することにしました。すなわち、「PCR」という検索語が増加し、それに伴いPCR検査数が増加すれば、「関心(意識)」が実際の「行動」に繋がった傍証の一つになると考えられます。

その場合、重要な点は、PCRの検査件数の集計対象に、発症者や濃厚接触者など、感染した可能性が高い人が含まれていないということです。そのような方の検査は、行動変容によるものではなく、診断や感染の有無を調べるための検査であり、感染者数の増加と相関するのは当たり前です。

町田予防衛生研究所では、2020年12月から新型コロナウイルスのPCR検査を行っています。流行が続く中、地域での感染拡大防止や市民の不安の軽減等を目的に、2021年ゴールデンウイーク前の4月末から、町田駅前の繁華街にPCRステーションを開設し、市民が気軽に検査を受けることができる体制を構築しました(PCRステーションの運用は2021年11月末までで、現在は本社ビルでの受付のみとなっています)。ここの検査希望者には、基本的に発症者や濃厚接触者は含まれていません。

そこで、町田予防衛生研究所での新型コロナウイルスのPCR検査件数(受付件数)とGoogleトレンドでの「PCR」の検索数の日別の推移(図7-A)について相関性(図7-B)を調べてみたところ、相関係数(R)は0.91で強い正の相関性が認められました。

この結果は、新型コロナウイルスのPCR検査に対する関心(意識)が、実際にPCR検査を受けるという行動に繋がった可能性を示唆するものと考えられます。(Googleトレンドでの検索件数は日本における動向であり、Googleでの「PCR」の検索が町田予防衛生研究所でのPCR検査に直接繋がったということではありません)。

fig7_pcrsearch.jpg


検査件数は当該日を含め、その6日前からの7日間の平均値を示す

図7 「PCR」検索件数とPCR検査件数の推移(A)と相関性(B)

 

5. 今後も継続した感染対策を!!

以上のように、新型コロナウイルス第5波が減少傾向に転じた要因の一つと考えられる「国民の行動変容」について、国民の新型コロナウイルスに対する関心が行動に繋がった可能性を示す具体例として、webでの検索数と健康者のPCR検査の受検者数の推移から分析しました。その結果、第5波における感染者の急増による医療体制のひっ迫から、「自身が感染した時、医療を適切に受けることができない不安」等の関心度の高まったことが、webでの検索件数の推移から捉えることができました。また、新型コロナウイルスに対する検査に対する関心度も高まり、それに呼応するように健康者のPCR受検者数の増加を確認することができました。これらの結果は、「国民の行動変容」を示す一つの具体例になると考えられます。

新型コロナウイルスの第8波が始まった中、重症例が減少していることもあり、国民の間で、新型コロナウイルスに対する不安は徐々に低下しつつあります。一方で、後遺症に悩む方は少なくありません。入院者を対象とした調査では、約3割の方が診断後12か月の間、倦怠感、呼吸困難等の症状がみられたとの報告もあります。

引き続き、個人個人ができる感染予防対策を無理なく継続していきましょう。

 

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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