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新型コロナウイルス不顕性感染者における唾液中のウイルスRNA量の経時的推移

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新型コロナウイルス不顕性感染者における唾液中のウイルスRNA量の経時的推移アイキャッチ
ヨケンとは?

町田予防衛生研究所の予研(ヨケン)です。また、ヨケンは、与件(推論や研究の出発点として、与えられた条件=データ)や予見(先を見通す)も意味し、与件(データ)を分析し、これから先を予見し、顧客の皆様、そして国民や社会により貢献できる会社(予研)になることを目指すという思いを込めています。

新型コロナウイルス不顕性感染者のウイルス(RNA)排出量は発症者と同程度であると報告されていますが、その経時的変化を個人において追跡した報告はあまりみられません。今回、社内のPCR定期検査で弱陽性となり、感染初期である可能性が考えられた社員について、経時的に唾液を採取し、ウイルス(RNA)量の推移を調べました。当該感染者はウイルス(RNA)の排出が終わるまでの12日間、平熱を維持し、症状はなく、不顕性感染で経過しました。唾液中のウイルス(RNA)量の推移は、既報におけるウイルス(RNA)量と概ね同じでした。定期検査で感染初期に不顕性感染者を発見でき、その後の感染拡大の予防にもつながった、貴重な事例であると考えられます。

1. 新型コロナウイルス不顕性感染者のウイルス(RNA)排出量

新型コロナウイルスに感染しても明確な臨床症状を呈さない不顕性感染を起こすことがあります。不顕性感染者における上気道のウイルス(RNA)排出量は、一般に発症者(顕性感染者)と同程度であると報告されています(文献1)。Raらの報告(表1)によると、新型コロナウイルスRNA量の指標となるPCR検査におけるCt値(「PCR検査とCt値」参照)は不顕性感染者(N=22)、顕性感染者(N=62)のいずれも約31(E遺伝子)から約33(N遺伝子)で、両者に違いは認められていません。

表1 新型コロナウイルス感染者の上気道中のウイルスRNA量の比較
  不顕性感染例(無症状者) 顕性感染例(発症者)
症例数 22 62
PCR検査における標的RNAごとのCt値 E遺伝子 31.15±2.72 31.43±2.80
RdRp遺伝子 32.26±2.86 32.93±2.87
N遺伝子 33.05±2.52 33.28±2.48

文献1から引用

PCR検査とCt値

PCR検査では、新型コロナウイルスの遺伝子(RNA)の一部(標的RNA)について、逆転写反応により相補的なDNAを合成した後、PCR反応(熱変性⇒アニーリング⇒伸長反応)を繰り返すことで、DNAを増幅させます。1回のPCR反応でDNAは理論上2倍に増幅されるので、PCR反応をN回繰り返すと2N倍に増幅されることになります。DNAの増幅に伴い、それを示す蛍光強度が増加し、蛍光強度が判定基準に達すると陽性と判定されます。この陽性基準に達した時のPCR反応の繰り返しの回数(サイクル数)をCt(threshold cycle)値と言います。このCt値は、基本的に検体中に含まれるウイルスRNA量に反比例します。つまり、検体中のウイルスRNA量が多いと、少ないPCR反応の回数で陽性基準に達するためCt値は小さくなり、逆に検体中のRNA量が少ないと、陽性基準に達するためにPCR反応を多く繰り返す必要があり、Ct値が大きくなります。Ctの他に、Cp(crossing point)、Cq(quantification cycle)と表現されることもありますが、すべて同じ意味になります。

新型コロナウイルスの標的RNAは表1のようにE(エンベロープ)、RdRp(RNA依存性RNAポリメラーゼ)、N(核蛋白質)をコードする遺伝子などいくつかありますが、町田予防衛生研究所では、市販PCR検査キットを用いて、N遺伝子上に設定したN1、N2と呼ばれる2種類のPCR増幅系によって検査を実施しています。

 

2. 不顕性感染者におけるウイルスRNA量の経時的推移

一方、新型コロナウイルス感染者における経時的なウイルスRNA量の推移については、発症者におけるデータは数多くみられますが、不顕性感染者の経時的変化を個人において追跡した報告はあまりみられません。

ここでは、感染初期と推定される時期にPCR検査で感染を確認し、PCR検査で陰性化するまでの間、不顕性で経過した1例を経験しましたので、その概要を紹介します。

(1)症例
当該感染者は、30代・男性で基礎疾患はなく、新型コロナウイルスワクチンは2回接種済(M社、2021/7/21・8/27)でした。

(2)感染の確認とその後の対応
2021年2月14日に、社内の定期PCR検査でN1弱陽性(Ct値=39.3)、N2陰性(>40)となり感染の可能性が示唆されたため、同日、医療機関を受診。医療機関でのPCR検査で陽性となったことから新型コロナウイルス感染者と診断され、症状がなかったことから保健所の指示により自宅療養となりました(解除予定日:2月21日)。

(3)健康観察とPCR検査結果
2月14日にPCR検査で陽性となって以降2月28日まで、体調の異常はなく、極めて健康な状態を維持しました。体温は、原則として午前と午後 の2回、毎日測定したところ、35.8~36.6℃の範囲内にあり、平熱を維持しました(図1)。

PCR検査用の検体は、2月17日~28日、原則として午後に1回唾液を採取しました。PCR検査は、市販の新型コロナウイルスのリアルタイムPCR検査キットを用いて、N1およびN2の増幅系について実施しました。

当該感染者の唾液中のウイルス(RNA)量の指標となるCt値の推移をみると(図1)、2月14日はN1のみ弱陽性(Ct値=39.3)でしたが、3日後の2月17日はN1:27.7、N2:29.0とウイルスRNA量が増加した後、2月18日をピーク(N1:27.7、N2:25.2)とした後、2月21日までウイルスRNA量が多い(N1:<26.5、N2:<29.4)状態を維持しました。その後徐々に減少し、2月25日まで陽性(N1:37.3、N2:36.9)、2月26日以降陰性化(>40)しました。ウイルスRNAが陽性であった期間は12日間でした。


図1 新型コロナウイルス不顕性感染者のウイルスRNA量と体温の推移

(4)既報におけるウイルスRNA量の経時推移との比較
当該感染者は感染時期から当時流行の主流であったオミクロン株に感染した可能性が高いと推定されるため、国内のオミクロン株感染例におけるウイルスRNA量の経時推移(文献2)と比較しました(図2)。

本症例における唾液中のウイルスRNA量は有症者(97人)、ワクチン接種者(61人、90.5%がワクチン接種2回済)、無症状者(27人)における上気道(鼻咽頭検体または唾液)におけるウイルスRNA量(Ct値)の平均値(図2の赤線)と概ね同じでした。

 


作図に引用した図は文献2中の図1の一部で、オミクロン株の感染が確定した症例【有症者(97人、524検体[鼻咽頭検体:473、唾液:51])、ワクチン接種歴を有する感染者(61人、388検体[鼻咽頭検体:338、唾液50]、無症状者(27人、138検体[鼻咽頭検体:117、唾液21])】におけるN2増幅系によるCt値を示す(赤線は平均値、UDLは検出限界以下)。オミクロン株の潜伏期間は2.9日(約3日)とされていることから(文献3)、AとBの図においては、本報告の感染者はPCR陽性となった最初の日(2月14日)の前日に感染したと仮定し、3日目を発症日(発症後日数=0日)とみなしてデータを重ねた(Bの「診断後日数」を「発症後日数」とする)。Cの図においては、文献における無症状者の多くは濃厚接触者であると考えられることから、接触があった感染者の潜伏期(3日間)の翌日を診断日と仮定した上で、推定感染日から4日目を本症例の診断日(診断後日数0日)とみなしてデータを重ねた。図中の赤の◆はN1、青の▲はN2のCt値を示し、Ct値が40を超える場合は検出限界以下(UDL)とした。

図2 国内のオミクロン株感染例とのウイルスRNA量(Ct値)の比較

 

3. 健康でも自らが感染源になる可能性を意識して!!

今回の事例においても、感染した兆候がまったくない新型コロナウイルス不顕性感染者の唾液中のウイルス(RNA)量や、その経時的な変化は発症者と同程度であることが確認されました。これまで、幾度となく繰り返し注意喚起されていることですが、常日頃から、自らが新型コロナウイルスに感染している可能性を意識して、行動することが大切であることを改めて示す事例だと思います。

本事例の新型コロナウイルス感染者は、社内の定期検査によって発見されました。しかも、感染して間もない時期での発見であり、もし、定期検査で感染者を見つけることができていなれば、その後不顕性感染で経過したことから、いつもどおり出勤し、社内で感染が拡大し、クラスターが発生した可能性もあります。その意味でも貴重な事例であったと考えています。

担当 衛生検査部
文責 野田 衛 

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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