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コロナ禍で日常化したアルコール手指消毒の食品取扱者における影響

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コロナ禍で日常化したアルコール手指消毒の食品取扱者における影響アイキャッチ
ヨケンとは?

町田予防衛生研究所の予研(ヨケン)です。また、ヨケンは、与件(推論や研究の出発点として、与えられた条件=データ)や予見(先を見通す)も意味し、与件(データ)を分析し、これから先を予見し、顧客の皆様、そして国民や社会により貢献できる会社(予研)になることを目指すという思いを込めています。

コロナ禍で日常化したアルコール手指消毒は、感染症予防のみならず食品衛生の面からも効果が期待できますが、その影響については調べられていません。(株)町田予防衛生研究所では、衛生指導の一環として、食品取扱施設の従業員の手洗い後の手指等のふき取り検査を実施していますが、手指消毒の日常化が手洗い後の手指ふき取り検査結果に影響している可能性を考えました。そこで、新型コロナウイルスの流行前(2017~2019年)と流行が始まった後(2020年、2021年)の手指ふき取りの一般生菌数を比較したところ、新型コロナウイルスの流行が本格化するなか、2020年7月以降、過去3年間と比較して有意に菌数が減少していることが分かりました。この結果から、コロナ禍で日常化したアルコール手指消毒が影響し、食品衛生の面からも一定の効果があると考えられました。

 

1. コロナ禍で日常化したアルコール手指消毒

1918年のスペイン風邪以来の甚大な被害をもたらした新型コロナウイルスのパンデミックは私たちの生活様式を一変させました。その一つに、アルコール手指消毒の日常化があります。

飲食店のみならず、デパートやスーパーマーケット等の公共施設、職場や学校など、多くの施設の出入口等にはアルコール手指消毒剤が置いてあり、一日に数回、多い時は十数回、手指消毒を行っている方もおられると思います。

アルコール手指消毒は新型コロナウイルスの感染予防のために日常化しましたが、いうまでもなくインフルエンザなど他の感染症対策のみならず、食中毒予防などの食品衛生管理の面にも効果があると考えられます。

2022年9月1日に開催されたフードサニテーションパートナー(FSP)会主催の「コロナ禍で始まったHACCP制度化完全施行:1年が経過した今、何が見えてきたか?」というテーマのオンライン講演会で、生活協同組合コープさっぽろ品質管理室室長の是永憲宏先生は、「新型コロナウイルスの流行で、これまで衛生的な意識が低かったバックヤードの従業員も手洗いや手指消毒をするようになり、その点ではよかった。」という趣旨のお話をされていました。

 

2. 食品取扱者におけるアルコール手指消毒の影響の検証

そのようにアルコール手指消毒の日常化は食中毒予防など食品衛生管理の面からも効果が期待できます。具体的には、手指に汚染している細菌がアルコール消毒により死滅することから、食品取扱施設に持ち込まれる細菌数が減少し、より衛生的な食品の取り扱いができるようになることが考えられます。しかしながら、日々のアルコール手指消毒が食品衛生管理の側面において影響を及ぼしているのかについては、これまで調べられておらず、明らかにされていません。

一方、(株)町田予防衛生研究所では、食品取扱施設の衛生指導の一環として、調理施設等の環境のふき取り検査とともに、食品取扱者が衛生的な手洗いが実施できているかを把握するために、手洗い後の手指等のふき取り(以下「手指ふき取り」と記載します)を対象に一般生菌数、黄色ブドウ球菌、大腸菌群などの受託検査を行っています。

そこで、コロナ禍でのアルコール手指消毒の日常化が、この手指ふき取りの検査結果に影響を及ぼしている可能性があるのでは考えました。逆にいえば、手洗い後のふき取り検査結果からアルコール手指消毒の影響を推察することができるのではないかと考えた訳です。

以上の背景から、今回、食品取扱者の手洗い後のふき取り検体の一般生菌数の受託検査結果について、新型コロナウイルスの流行前と流行が始まった後で比較し、アルコール手指消毒の影響を調べることとしました(「学会発表」参照)。以下、その概要について紹介させていただきます。

(1)解析した手指ふき取りの特性

解析対象は、新型コロナウイルスの流行前の3年間(2017年~2019年)と、流行が始まった後(以下「流行後」と記載します)の2020年、2021年の計5年間の手指ふき取り検体の一般生菌数の検査データです。手指ふき取り検体は、給食サービス、ホテル施設、製造、高齢者施設、外食産業、幼児施設、卸売り・小売り等の食品取扱事業者の食品取扱者に、作業中に手洗いをしてもらい、その後ふき取りを行ったものです。92%は手洗いとアルコール手指消毒を行った後に手指のふき取りを行ったものですが、作業中にふき取りをしたり、手袋着用のまま手洗いを行った後ふき取りをしたものなども含まれます。

手指に汚染している菌数は、手洗いや手指消毒直後、肉や野菜などの食品の取り扱い時、ドアノブ等の環境の接触時等により、日々、経時的に変動しています(下図参照)。したがって、今回の解析結果は、アルコール手指消毒の効果を直接的に比較、解析したものではありません。

手指の菌数の変動と手指ふき取り受託検査のイメージ図

(2)手指ふき取りの一般生菌数と新型コロナウイルス新規感染者数の月別の推移

図1に手指ふき取りの一般生菌数の平均値と新型コロナウイルスの新規感染者数の月別の推移を示しました。

緑色の折れ線グラフは手指ふき取りの一般生菌数の常用対数変換値(「菌数の対数表示」参照)を月別に集計し、その平均値の推移を示したものです。月別の一般生菌数平均値はばらつきが大きいことから、前後3か月の平均値を赤色の折れ線グラフで示してあります。例えば、2月の一般生菌数平均値は1月から3月の平均値の平均値となります(以下「3か月平均値」と記載します)。新型コロナウイルスの新規感染者数は紫色の折れ線グラフで、目盛は対数表示です。

菌数の対数表示

細菌やウイルスが増殖すると、その数は1億個~10億個程度に至ります。そのため、菌数やウイルス数は指数や対数で表記することが多くあります。1億を10の指数で表記すると108、底を10とする対数(常用対数といいます)で表記すると8log 10(底の10を省略し、8logと表記することもあります)となります。

つまり、1億=100,000,000=108=8log10です。なお、対数とは本来「〇を何乗すれば△になるか」を表す数(何乗)のことです。すなわち、1億の場合、10を8乗(108)したら100,000,000になるので、対数自体は8であり、100,000,000ではありません(log10100,000,000=8)。あくまで、8log10は108を対数の形で表記しているということです。

本文中の図1図3の縦軸(ふき取り当たり菌数)の目盛は常用対数で示されています。菌数を理解しやすくするために、( )内に真数(8log10の真数は100,000,000)を示してあります。

 

 図1から分かるように、月別の手指ふき取りの一般生菌数には変動が認められていますが、新型コロナウイルスの流行が本格化した2020年の夏頃から月別の菌数は低下する傾向を示しました。そこで新型コロナウイルスの流行との関連を詳しく調べてみました。

図1 手指ふき取りの一般生菌数平均値と新型コロナウイルス新規感染者数の月別の推移

 

(3)新型コロナウイルス流行前後の手指ふき取りの一般生菌数の比較

図2は、手指ふき取りの一般生菌数の月別平均値を、新型コロナウイルス流行前の2017年~2019年の3年間の平均値と、流行後の2020年、2021年で比較したものです(我が国で1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が最初に100人を超えたのは2020年3月27日)。なお、月別の菌数は3か月平均値で示してあります。

2020年6月までは2017年~2019年の一般生菌数平均値の標準偏差内で概ね推移しましたが、新型コロナウイルスの流行が本格化するなか、6月(図中の青色の矢印)から減少に転じ、7月(赤色の矢印)以降、過去3年間の平均値と比較して、低い菌数レベルで推移しました。季節別(3月~5月、6月~8月、9月~11月、12月~翌2月)の菌数を統計処理したところ、2017年~2019年の平均値と比較して2020年6月~8月以降すべて有意差が認められました(危険率1%以下)。

図2 新型コロナウイルス流行前(2017年~2019年の平均値)と流行後(2020年、2021年)との月別の手指ふき取りの一般生菌数の比較


手指ふき取り当たりの一般生菌数の年次別の平均値(図3)は、2017年2.74log10(真数値として550)、2018年2.70log10(501)、2019年2.71log10(513)、2020年2.59log10(389)、2021年2.54log10(347)で、2017年、2018年、2019年と2020年、2021年との間でそれぞれ統計学的に有意差が認められました(危険率1%以下)。

図3 年次別の手指ふき取りの一般生菌数の比較

 

3. 継続しよう、アルコール手指消毒

以上のように、今回解析対象とした食品取扱者の手洗い後の手指等の一般生菌数は新型コロナウイルスの流行が本格化するなか、2020年7月以降有意に減少していることが分かりました。この結果は、新型コロナウイルスの流行によって日常化したアルコール手指消毒が影響していることを示唆しているものと考えられます。

アルコール消毒により手指の細菌が死滅することで、食品取扱施設に持ち込まれる細菌数が減少し、より衛生的な食品の取り扱いができるようになることに加えて、手指に付着した食中毒菌や腐敗細菌が食品に汚染するリスクが減少することも期待できると思います。新型コロナウイルス対策として始まった日常的なアルコール手指消毒ですが、食品衛生管理の面からも引き続き継続して実施したいものです。

一方、手指を介して感染し、食品衛生上重要なノロウイルスは、一般に、アルコールが効きにくいとされています。最近では、ノロウイルスに対しても有効と思われるアルコール手指消毒剤も市販されるようになってきました。そのことについては別の機会に文献等を紹介させていただきたいと思います。

また、いうまでもなく、アルコール手指消毒では、手洗いとは異なり付着物などを物理的に除去する(洗い流す)ことはできませんし、芽胞菌に対しては効果が期待できません。アルコールの過度な使用による手荒れが懸念される場合もあります。手洗いとアルコール手指消毒をTPO(時、所、場合)でうまく使い分けること、手洗いやアルコール手指消毒が必要なタイミングを意識し、必要な時に実施することが大切です。手洗いについてもこれまで以上に衛生的な手洗いを実施していただきたいと思います。

 

本内容については、下記において発表しました。

学会発表
渡邉英太、新倉圭二、目黒麻子、八田守貴、戸田信太郎、太田建爾、野田 衛:調理場における日常的な手洗いの有効性に関する細菌学的検証、第43回日本食品微生物学会学術総会、2022年9月29日(東京都)

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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