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ノロウイルスの汚染はどのようにして起こる?(その3:唾液からの汚染の可能性)

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ノロウイルスの感染は、過去にお話ししましたように、主にトイレ使用時や感染者からの嘔吐物に触れた際に起こります。

ノロウイルスの汚染はどのようにして起こる?(その1:トイレでの汚染)

ノロウイルスの汚染はどのようにして起こる?(その2:嘔吐物からの汚染)

これは、感染者の腸管(主に小腸)の上皮細胞で増殖した大量のノロウイルスが便や嘔吐物に含まれるため、と考えられていました。ところが、著名な科学雑誌であるNature (2022年6月29日)に、米国国立衛生研究所(NIH)のGhoshらの研究グループは、主にマウスを用いた感染実験によりノロウイルス等の胃腸炎ウイルスが唾液腺で増殖し、唾液を介して感染する可能性があるとする論文を発表しました(参考文献1)。

今回は、その論文の概要を中心に、唾液からの汚染の可能性についてお話します。

1. 唾液からのノロウイルスの検出

美味しいものを目の前にすると口腔内に出てくる唾液。この唾液は、唾液腺から口腔内に分泌される分泌液で、主要な成分である水の他、電解質、粘液、そして様々な作用を持つ成分が含まれています。ヒトの場合、1日に1~1.5リットル程度分泌されると言われています。

唾液中にはアミラーゼと呼ばれる蛋白質分解酵素が含まれ、消化を助ける働きがあることはよく知られています。よく噛んで食事をすることは、このためでもあります。唾液には、口腔粘膜の保護や洗浄、殺菌、抗菌などの作用もあります。

ウイルス感染予防においても唾液は重要です。唾液中には、分泌型IgAなどの免疫グロブリン(抗体)が含まれ、体内にウイルスが侵入した際に、ウイルス粒子に結合し、ウイルスが目的とする細胞に結合することを阻害する働きがあります。口から侵入したウイルスに対する最初の砦であるとも言えます。

分泌型IgA抗体とは?

分泌型IgA抗体とは免疫グロブリンの一種で、唾液などの口腔内や腸管内に分泌される抗体です。血液中に存在するIgG抗体やIgM抗体は血中抗体と呼ばれています。分泌型IgA抗体は、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどの呼吸器系ウイルスやノロウイルス等の腸管系ウイルスの感染防止に重要な役割を担っています。また、分泌型IgA抗体は、母乳中にも大量に含まれます。生後6か月未満の新生児は免疫機能が未熟で、抗体を産生する能力が弱いため、母乳を飲むことで、受動免疫を獲得して、ウイルス感染を防いでいます。

さて、その唾液を含む口腔内の拭い液やうがい液から,ノロウイルスはこれまでも検出されることがありました。しかし、これは口腔回りの細胞でノロウイルスが増殖したためではなく、腸管の細胞で増殖したノロウイルスが嘔吐物とともに口腔内に逆流し、唾液を含む口腔内を汚染したためであると考えられていました。あくまで、ウイルスの増殖の場所は腸管細胞であるとされていたのです。

 

2. 乳飲みマウスから母親マウスへの感染

Ghoshらの研究グループは、生後10日未満の新生マウス(乳飲みマウス)を用いて、ノロウイルス(マウスノロウイルス)やロタウイルス(伝染性マウス幼仔下痢症の原因ウイルス)の感染実験を行いました。実験に用いたウイルスはマウスを宿主とするノロウイルスやロタウイルスであり、ヒトに感染するノロウイルスやロタウイルスとはウイルス学的に近縁ですが、異なったウイルスです。

実験の結果、乳飲みマウスに、これらのウイルスを感染させることができましたが、驚いたことが起こりました。乳飲みマウスは免疫機能の発達が不十分で、抗体を作る能力が未熟であるにも関わらず、感染後3日目に、乳飲みマウスの小腸から分泌型IgA抗体が大量に検出されました。この分泌型IgA抗体はどこから来たのでしょうか?

乳飲みマウスは母親マウスの母乳を飲み栄養を摂取することで、生きています。そこで、母親マウスについて調べたところ、母乳中に大量に分泌型IgA抗体が含まれていました。さらに、乳腺細胞のウイルス量を調べたところ、105倍にウイルス量が増えていることが分かりました。そしてウイルスが増殖している部位は、乳管を覆う上皮細胞と免疫細胞の一種であるB細胞であることが明らかにされたのです。

感染経路について詳しく分析したところ、母親マウスはウイルス感染した乳飲みマウスが母乳を吸うことで、乳飲みマウスから感染したことが分かりました。このことは、乳腺から侵入したウイルスが乳腺細胞に到達して、そこで増殖した可能性を示唆しています。

さらに、そのように感染した母親マウスから、未感染の乳飲みマウスに感染することも示されました。この感染経路は母乳あるいは糞便からの感染と考えられます。

 

3. 唾液による感染の可能性

次に、唾液が感染源になるか、調べられました。大人のマウスにマウスノロウイルスを経口接種後、唾液を回収し、ウイルス量を測定したところ、接種後2日目からウイルスが検出され、3日目には接種後6時間目のウイルス量(接種したウイルス量)と比較して104倍多く、ウイルスの排出は3週間に渡り継続しました。

唾液腺には、耳下腺、舌下腺、下顎腺があります。この中で、最も大きい下顎腺についてウイルスの量を調べたところ、唾液と同じように、接種したウイルス量と比較して、104倍多くなっていました。

この下顎腺でのウイルスの増殖量と増殖期間は、腸管(結腸)での増殖の場合と同等のレベルでした。

マウスロタウイルスやマウスアストロウイルス(ヒトのアストロウイルスも胃腸炎の原因になります)でも、下顎腺でのウイルスの増殖が確認されました。

そして、唾液を別のマウスに経口的に投与したところ、糞便を経口投与した場合と同様に、感染が起こることが明らかにされました。

4. 唾液腺(下顎腺)における受容体

ウイルスが細胞に侵入し、増殖するためには、細胞表面に発現(存在)している受容体(receptor)に結合する必要があります。マウスノロウイルスが腸管細胞で増殖するために使用している受容体は、Cd300lfと呼ばれる蛋白質です。

このCd300lfは、マウスノロウイルスの増殖が認められた下顎腺でも多く発現していました。しかし、Cd300lfが発現していないマウスを用いた場合は、マウスノロウイルスの増殖は起こりませんでした。このことから、マウスノロウイルスが下顎腺に感染するためには、Cd300lfの発現が必要であることが分かりました。

5. ヒトノロウイルスの唾液腺由来細胞株での増殖

ヒトのノロウイルスはその発見から約50年間、培養することができませんでした。このことが、このウイルスの生存性や消毒剤の有効性を調べることが困難であった最大の理由です。現在では、腸管に由来するES細胞やiPS細胞あるいは免疫細胞の一種であるB細胞に胆汁酸等を添加することで培養が可能となっています。しかし、試薬が高価であることや試験が煩雑であることから一般の研究室での実施は容易ではなく、また増殖が十分とは言えません。

Ghoshらは、上記のマウスの実験で、マウスノロウイルスが唾液腺で増殖することが分かったことから、ヒトのノロウイルスも唾液腺で増殖するのではないか?と考えました。

そこで、ヒトのノロウイルス(遺伝子型GII.4)を用いてヒトの唾液腺由来の細胞株(SV40形質転換付着性唾液細胞株)を用いて、培養を試みました。その結果、接種後6時間から96時間の間に細胞内のウイルスRNA量は約1,000倍に増加しました。継代(増殖したウイルスと新しい細胞を用いて培養を繰り返すこと)を4回繰り返したところ、増殖量は減少し、細胞内および細胞外のウイルスRNA量は、それぞれ初期のウイルス量の約100倍および10倍と減少しました。この結果は、腸管細胞を用いた培養実験で報告されたものとほぼ同じ程度でした。

これらのことから、唾液腺由来の細胞で、腸管由来細胞と同程度にヒトのノロウイルスが増殖できることが確認されました。(ただし、ウイルスの増殖量や継代が不十分であることから、完全に培養できたという訳ではありません)。

 

6. まとめ

以上、マウスを用いての感染実験が中心ですが、ヒトのノロウイルスも唾液腺で増殖し、唾液が感染源となる可能性を示した論文を紹介しました。

従来から、嘔吐により口腔内がノロウイルスに汚染され、その結果、唾液や唾も感染源になる危険性は指摘されていました。この報告は、嘔吐がない場合でも、唾液が感染源になる可能性があり、唾液や唾の感染源としての重要性を高めることを示唆しています。

一方で、実際にヒトのノロウイルス感染において、唾液腺での増殖が起こり、唾液が感染源になっているのか、もし感染源になっているのであれば、その程度や危険性はどれくらいなのかなど、不明な点は数多くあります。しかしながら、その可能性が示された以上、唾液が感染源になる可能性を考え、対処することが大切だと思います。

今後は、嘔吐がない患者からの呼吸器材料(唾液や咽頭拭い液)からのノロウイルスの検出等のデータの蓄積が求められると思います。今年東京都で開催された第63回日本臨床ウイルス学会で、岡らは、非胃腸炎症例(呼吸器疾患疑い)の咽頭拭い液807検体のうちノロウイルスが36検体(4.5%)、サポウイルスが26検体(3.2%)から検出されたと報告しており(参考文献2)、今後の研究が注目されます。また、唾液腺由来の細胞を用いてのノロウイルスの培養法の確立も強く望まれます。

 

参考文献

1.Ghosh S et al.: Enteric viruses replicate in salivary glands and infect through saliva, Nature. 2022 Jun 29;1-6. doi: 10.1038/s41586-022-04895-8. Online ahead of print.

2. 岡 ら:非胃腸炎症例の咽頭拭い液からの下痢症ウイルス検出,第63回日本臨床ウイルス学会抄録(2022)

ノロウイルスによる食中毒の症状や特徴、予防方法について

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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