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刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(1) ~ウイルスによる分散型広域食中毒~

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刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(1) ~ウイルスによる分散型広域食中毒~アイキャッチ

過去2回にわたり、ノロウイルスの代表的な汚染経路であるトイレでの汚染嘔吐物からの汚染についてお話してきました。

今回から数回にわたり、一人の食品取扱者からノロウイルスが汚染したと推定された刻み海苔が原因となり、汚染が起こった時期から1か月~2か月後に全国各地で発生した食中毒事件について紹介します。

1. ノロウイルス食中毒事件のうち史上最もインパクトのある食中毒事件

ノロウイルスは、「その他のウイルス」とともに1997年5月30日に食中毒の原因物質に加えられました。すなわち、2022年5月で25年目(四半世紀)を迎えることになります。ノロウイルスは当時小型球形ウイルス(SRSV)と呼ばれ、主にカキ等の二枚貝を介する食中毒の原因物質として知られていました。現在では、二枚貝を介した食中毒も発生していますが、食品取扱者からの食品の二次汚染による食中毒が大半を占めています。

この25年の間に数多くのノロウイルス食中毒事件が起こりましたが、5年前の2017年1月~2月にかけて複数の自治体の学校、事業所等で発生した、「刻み海苔」を原因とする食中毒事件は、これまでに発生したノロウイルス食中毒事件の中で、最もインパクトのある食中毒事件であったと思います。

海苔は、我が国で古くから食用に使用され、現在でも最も一般的な食材のひとつですが、海苔巻き、トッピング、ふりかけなど一度の食事で多くを摂取することは多くありません。しかも、海苔は乾物であり、刻み海苔はパック詰めされ、流通していました。およそ食中毒を起こすような食品とは想像することができませんが、そのような刻み海苔が大規模な食中毒を起こしたのです。そのため、当時、マスコミでも数多く報道されました。

また、この食中毒事件はそれまでのノロウイルスによる食中毒とは異なる様々な特徴がありました。この食中毒事件から、私たちはいろいろなことを学ぶことができます。

2. 分散型広域食中毒(diffuse outbreak)

本食中毒事件は、各自治体の保健所の調査や地方衛生研究所の原因究明検査の連携、協力によって、2016年12月下旬に、一つの海苔加工所において、シート状の焼き海苔を刻む作業中に、作業者からノロウイルスの汚染を受けたと推定される刻み海苔が、包装後、販売され、2017年1月~2月にかけて4都府県の7施設において調理に使用され、食中毒に至った、いわゆるdiffuse outbreak(分散型広域食中毒)であることが明らかにされました。

参考 diffuse outbreak(分散型広域食中毒)とは

diffuse outbreak(分散型広域食中毒)とは、同じ病原体の汚染を受けた(基本的にある病原体が同じ汚染経路で食品を汚染)食品が、各地に流通し、複数の食中毒事件が発生した場合、それらをまとめて一つの食中毒事件として捉えたものを言います。「diffuse」は「分散した、拡散した、広がった」など、「outbreak」は集団発生を意味します。ここでは、分散型広域食中毒と記載することにします。

代表的な分散型広域食中毒に腸管出血性大腸菌感染症による事例があります。感染の多くは汚染食品の喫食が原因ですが、感染症法に基づき感染者は症例ごとに医師から保健所に症例ごとに報告されることもあり、原因食品は不明なことが少なくありません。

しかし、感染者から検出された腸管出血性大腸菌の遺伝子を詳細に分析すると、異なる症例から同一の菌株が検出されることがあります。同一菌株が検出された患者について、詳細に疫学調査を行うと、共通の食品がみつかり、分散型広域食中毒であったと判明することがあります。

このように、個別に報告された事例が、その後の調査により同一の汚染源による事例であることが判明するため、日本語では、散在的集団(食中毒)事例、散発型集団(食中毒)事例、散発広域集団(食中毒)事例などと呼ばれることもあります。

厚生労働省は、diffuse outbreakを「広域的な食中毒」と呼んでいます。平成29年夏に関東を中心に発生した腸管出血性大腸菌感染症の広域的な食中毒事案の対応における課題を踏まえて、厚生労働省は食品衛生法を改正し、広域的な食中毒の発生や拡大防止のための対策を強化しました(平成31年4月から施行)。

3. 刻み海苔関連ノロウイルス食中毒事件の発生状況

作業者からノロウイルスの汚染を受けた刻み海苔は、乾燥剤とともにポリ袋に詰められ、シールされた後、各地に出荷、保管されていました()。

 

図 刻み海苔関連ノロウイルス食中毒事件の概要

包装から約1か月後の翌年1月25日にA自治体の給食で提供された「磯和え」の食材の一つとして刻み海苔が使用されました。磯和えは、小学校、中学校および幼稚園に提供され、喫食した合計2,062人のうち763人の児童さんや生徒さんたちが発症しました(表、事例①)。

別のB自治体の事業所において1月26日に発生したノロウイルス食中毒事件では42人中39人が発症しましたが、原因施設において1月25日昼に提供された食事に同じ刻み海苔が使用されていました(事例②) 。

さらにその約20日後(刻み海苔が加工されてから約2か月後)の2月16日にC自治体の7つの小学校において、学校の共同調理場で製造された学校給食で提供された「親子丼」のトッピングとして刻み海苔が使用されました。親子丼を喫食した生徒や先生等合計3,078人のうち、1,084人が発症しました(事例③)。

C自治体の別の市において、2月21日に刻み海苔が小学校の給食の炊き込みご飯のトッピングに使用され467人が喫食し26人が発症、2月24日に別の小学校の給食のキンピラご飯のトッピングに使用され645人が喫食し81人が発症しました(事例⑤、事例⑥)。

2月28日にはC自治体の学校給食共同調理場で職員等向けに調理した給食により、2名が発症しましたが、2月27日に提供された「ほうれんそうとえのきの磯和え」に同じ刻み海苔が使われていました(事例⑦)。

また、2月18日にD自治体で発生した弁当調理施設を原因施設とするノロウイルス食中毒事件では、喫食者数228人中99人が発症しましたが、この食中毒事件においても同じ刻み海苔が使用されていました(事例④)。

 

表 刻み海苔関連ノロウイルス食中毒事件の概要

事例No 事例① 事例② 事例③ 事例④ 事例⑤ 事例⑥ 事例⑦
自治体
(都道府県)
A B C D C C C
発生施設 小・中学校、幼稚園(15施設) 事業所 小学校(7校) 弁当調製施設 小学校C1 小学校C2 (学校の職員)
発生日 1月26日 1月26日 2月16日 2月18日 2月22日 2月24日 2月24日
原因施設 学校-給食施設-共同調理場 事業場-給食施設-事業所等 学校-給食施設-共同調理場 仕出屋 学校-給食施設-単独調理場-小学校 学校-給食施設-単独調理場-小学校 学校-給食施設-共同調理場
原因物質 ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17)
喫食者数 2,062人 42人 3,078人 228人 467人 645人 19人
患者数 763人 39人 1,084人 99人 26人 81人 2人
原因食品 磯和え(学校給食) 不明(原因施設で1月25日昼に提供された食事) 刻み海苔
[親子丼のトッピングとして使用]
不明(原因施設で調製された弁当) 2月21日に当該施設が供給した給食(刻み海苔)
[炊き込みご飯のトッピングに使用]
2月24日に当該施設が供給した給食(刻み海苔)
[キンピラご飯のトッピングに使用]
刻み海苔
[ほうれんそうとえのきの磯和えに使用]
備考 7施設で同一業者が加工した「刻み海苔」を使用
検査結果 患者便、調理従事者便、磯和えから検出されたノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致 すべての検出ノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致 刻み海苔、患者便、嘔吐物から検出されたノロウイルスの塩基配列は一致 患者便、調理従事者便から検出されたノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致

両校の患者便およびC2小学校で保存されていた刻み海苔から検出されたノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致

患者、刻み海苔残品と未開封品から検出されたノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致

出典3から引用、一部改変

なお、事例①、事例②、事例④においては、同一製造業者が加工した刻み海苔が食品に使用されていましたが、それが食中毒の原因食品であったか否かについて公式には述べられていません。しかし、疫学的調査やウイルス学的分析の結果から、当該刻み海苔がこれらの事件の原因食品であった可能性が高いと考えられるので、一連の食中毒事件として扱うことにします(出典1、2、3)。

以上のように、この刻み海苔を介したノロウイルス食中毒事件は、地理的に拡がりを持つだけでなく、発生時期にも拡がりがある極めてめずらしい分散型広域食中毒事件でした。

次回から、この食中毒事件から私たちが学ぶべきことを詳しくみていきたいと思います。

 

出典

1)野田 衛:刻み海苔を介したノロウイルス食中毒事件が教えてくれたこと、国立医薬品食品衛生研究所報告、135、6-17(2017)

2)野田 衛:本邦初の刻み海苔を介した分散型広域ノロウイルス食中毒事件の全体像、食品衛生研究、67、11月号、7-14(2017)

3)厚生労働省:平成29年度全国食中毒事件録-厚生労働省食中毒統計資料より-(令和2年刊)、公益社団法人日本食品衛生協会出版

参考

ノロウイルスの予防法

刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(2) ~刻み海苔の汚染原因~

刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(3) ~これまでの食中毒とは異なる特徴~

刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(4) ~原因究明に至った経緯~

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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