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刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(4) ~原因究明に至った経緯~

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「刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(1)~ウイルスによる分散型広域食中毒」で紹介したように、本食中毒事件は2017年1月から2月にかけて4都府県の7施設で使用された刻み海苔を原因食品とするdiffuse outbreak(分散型広域食中毒)です。しかしながら、発生当初から、そのことが判明した訳ではありません。

今回は、これらの食中毒事件がどのような経緯で、分散型広域食中毒であることが明らかにされたかをみていきたいと思います。

1. 一般的な食中毒の原因調査

各自治体(保健所設置市)の保健所は、食品の喫食が原因と推定される健康被害(通常、下痢、腹痛、嘔吐などの胃腸炎症状や発熱を主徴とする。「食中毒疑い」事例という)が発生した場合、食品衛生法に基づき調査(疫学調査)を行います。

調査は、原因施設や原因食品を特定し、食中毒事件であることを明らかにし(感染症ではないことを示す)、食中毒に至った要因を解明し、被害の拡大防止や再発防止に必要な対策を講じるために行います。

ここでは、小学校で複数の児童が嘔吐し、調査の結果「ノロウイルス」を原因とする食中毒である可能性が疑われた場合を想定し、調査の進め方についてみてみましょう。

患者が発生すると保健所は、患者数、発症日、臨床症状、患者の発生状況(クラス等による偏りの有無等)を調査するとともに、発症した児童(患者)や調理施設の従業員の大便および検査のために保存していた給食(「検食」と言います)について、原因物質の検出のための検査を実施します。検査は一般に、地方衛生研究所と呼ばれる自治体の検査・研究機関が行っています。

疫学調査の結果、患者について、

  1. 発症時期が同じ
  2. 同じ食品(推定原因食品)の喫食歴がある
  3. 発生状況に偏りがない(発症が特定のクラスに集中せず、一様に発生している)

などの、共通性がみられ、

  1. 患者と推定原因食品から同じ原因物質(ノロウイルス)が検出される
  2. 検出された原因物質による過去の健康被害の臨床症状や疫学情報(症状、喫食から発症までの時間等)と今回の事例の臨床症状や疫学情報が矛盾しない

などの結果から食中毒の原因物質が特定されると、食中毒事件と断定されます(原因物質が特定されない場合でも、発生状況等の疫学情報から食中毒と断定される場合もあります)。

また、調理従事者から、ノロウイルスが検出された場合は、ノロウイルスに感染していた調理従事者から食品が汚染(調理従事者からの二次汚染)を受け、食中毒に至った可能性が考えられることになります。

一方、調理従事者からのノロウイルスが検出されなかった場合は、食品あるいは食材そのものが食材を受け入れた時点ですでに、ノロウイルスの汚染を受けていた(原材料汚染)可能性が高いことになります。

 

表 ノロウイルスによる食中毒、感染症の比較
区分 食中毒 感染症
臨床症状 違いはない
発症時期 ほぼ同じ時期に発症 拡がりがみられる
発生状況 偏りがない 偏りがみられる
ウイルスの検出 原材料汚染 調理従事者からの二次汚染  
患者(発症者)
食品 〇*1 〇*1 ×
調理従事者 ×*2 〇*2 ×

〇:ウイルス検出、×:ウイルス非検出
*1:食品からのウイルス検出は技術的に困難で、食品が汚染されているにも関わらずウイルスが検出されないことが少なくない。
*2:調理従事者が患者と同じ原因食品を喫食している場合は、調理従事者からウイルスが検出されても、調理従事者からの二次汚染が起こったとは断定できない。同じ理由で、原材料汚染の場合でも調理従事者からウイルスが検出されることがある。

以上は、典型的な調査や検査結果であり、実際には様々な例外があります。食中毒調査を行う自治体の食品衛生監視員は、調査結果と過去の事例など、多方面から分析し、原因究明を行っており、知識や技術に加えて多くの経験が必要になります。

2. 分散型食中毒の調査

分散型食中毒は、原材料汚染した食材が複数の異なる調理施設や家庭などで使用され、一見関連性のみられない複数の施設や場所で食中毒が発生する事例です。したがって、1.の調査で原材料汚染であることが判明したうえで、

  1. 複数の食中毒事件で同じ汚染した食材が使用されている
  2. 複数の食中毒事件において同じ病原体が検出される
  3. 汚染した食材を製造した食品取扱施設において食品取扱者や取り扱い施設の環境から患者と同じ病原体が検出される

などの、疫学的事実や検査結果が得られることが必要になります。

表 刻み海苔関連ノロウイルス食中毒事件の概要
事例No 事例① 事例② 事例③ 事例④ 事例⑤ 事例⑥ 事例⑦
自治体
(都道府県)
A B C D C C C
発生施設 小・中学校、幼稚園(15施設) 事業所 小学校(7校) 弁当調製施設 小学校C1 小学校C2 (学校の職員)
発生日 1月26日 1月26日 2月16日 2月18日 2月22日 2月24日 2月24日
原因施設 学校-給食施設-共同調理場 事業場-給食施設-事業所等 学校-給食施設-共同調理場 仕出屋 学校-給食施設-単独調理場-小学校 学校-給食施設-単独調理場-小学校 学校-給食施設-共同調理場
原因物質 ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17) ノロウイルス(GII.17)
喫食者数 2,062人 42人 3,078人 228人 467人 645人 19人
患者数 763人 39人 1,084人 99人 26人 81人 2人
原因食品 磯和え(学校給食) 不明(原因施設で1月25日昼に提供された食事) 刻み海苔
[親子丼のトッピングとして使用]
不明(原因施設で調製された弁当) 2月21日に当該施設が供給した給食(刻み海苔)
[炊き込みご飯のトッピングに使用]
2月24日に当該施設が供給した給食(刻み海苔)
[キンピラご飯のトッピングに使用]
刻み海苔
[ほうれんそうとえのきの磯和えに使用]
備考 7施設で同一業者が加工した「刻み海苔」を使用
検査結果 患者便、調理従事者便、磯和えから検出されたノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致 すべての検出ノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致 刻み海苔、患者便、嘔吐物から検出されたノロウイルスの塩基配列は一致 患者便、調理従事者便から検出されたノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致

両校の患者便およびC2小学校で保存されていた刻み海苔から検出されたノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致

患者、刻み海苔残品と未開封品から検出されたノロウイルスの塩基配列は事例③由来株と一致

出典3から引用、一部改変
「刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(1)~ウイルスによる分散型広域食中毒」から再掲。

3. 今回の刻み海苔が関連するノロウイルス分散型食中毒事件の原因究明の流れ

(1) 事例①、事例②の発生時点での調査

自治体Aで1月26日に小・中学校および幼稚園、計15施設で発生した患者数763名に上る食中毒事件(事例①)では、患者、給食を製造した調理施設の調理従事者および給食のメニューの一つとして提供された磯和えの保存検体(検食)からノロウイルス(遺伝子型GII.17)が検出されたことから、磯和えを原因食品とするノロウイルス食中毒事件と断定されました。

しかし、調理従事者からノロウイルスが検出され、調理従事者から食品が汚染された可能性を否定できないことなどから、各食材の原材料の入手先等のより詳細な調査には至らず、食品の汚染経路や汚染原因等は明らかにされませんでした。

すなわち、この時点では、発生施設は15施設に上るものの1つの共同調理施設での提供食品を原因とする、単独の食中毒事件であると取り扱われていました。

また、ほぼ同時期に自治体Bで発生した事業所における食中毒事件では、1月25日昼に提供された食事が原因と推定されたものの、原因食品は不明でした。

(2) 自治体Cで発生した事例③の調査

事例①の食中毒事件から約20日後の2月16日に自治体Cの小学校7施設で患者数1,084人に上る大規模食中毒が発生しました(事例③)。共同の調理施設で調理された給食を利用しており、患者発生状況などの疫学調査や患者からノロウイルス遺伝子型GII.17が検出されたことなどから、ノロウイルスによる食中毒と断定されました。しかし、通常食中毒発生時に行われる初期の検査では調理従事者の便、拭き取り検体、食品からウイルスは検出されず、汚染経路や原因食品の特定はできませんでした。

しかし、調理従事者からウイルスが検出されず、原材料汚染の可能性が考えられました。そこで、仕入れ先に保管されており、2月16日の学校給食で提供された親子丼に使用された刻み海苔と同じ賞味期限の未開封の刻み海苔15検体について検査を行ったところ、4検体からノロウイルス遺伝子型GII.17が検出されました。そして、保管されていた刻み海苔から検出されたノロウイルスは、患者から検出されたノロウイルスと塩基配列が一致したのです。

このことが事件解明の大きな役割を果たしました。すなわち、未開封の刻み海苔がノロウイルスに汚染していたとなると、同じ刻み海苔が他にも流通し、同じような食中毒が発生している可能性が考えられるからです。

さらに食中毒の原因となったノロウイルスの遺伝子型がGII.17であったことも、幸いしました。当時(2016/17シーズン)のノロウイルスの主要流行遺伝子型はGII.2で、次いでGII.4であり、GII.17はGII.6に次いで4番目に多く検出され(国立感染症情報センター、病原微生物検出情報による集計)ており、それほど多く流行している状況ではありませんでした(「最近のノロウイルスの流行状況について」参照)。

このようなこともあり、自治体Cの保健所で食中毒調査を行っている食品衛生監視員の脳裏には、約3週間前に自治体Aで発生した磯和えを原因食品とするノロウイルス遺伝子型GII.17による食中毒事件との関連性が、「海苔(磯和えに含まれると考えられる)」、「遺伝子型GII.17」という2つのキーワードと共に浮かんだはずです。

そして、両保健所の間で、刻み海苔の仕入れ先など海苔に関する調査情報が共有され、同じ施設で加工された刻み海苔が使用されていたことや、両食中毒事件の患者や食品から検出されたノロウイルス遺伝子型GII.17の塩基配列が一致することが明らかにされました。

その結果、自治体Aと自治体Cで発生した、2つの食中毒事件は同一汚染食品(刻み海苔)を原因とする分散型広域食中毒事件であることが分かったのです。

このような情報は、海苔の加工業者を管轄する自治体とも共有されることになります。そして、海苔加工業者の当時の健康状態の調査や施設のふき取り検査が行われました。その結果、原因となった海苔を加工した当時、海苔の刻み作業を行っていた従業員には吐き気等の症状があったことが分かりました。そして、施設のトイレや海苔の裁断に使用された裁断機からもノロウイルス遺伝子が検出され、事例①や事例③の患者から検出されたノロウイルスと塩基配列が一致し、同施設が原因であった可能性を裏付ける科学的根拠も得られました。

(3) その他の食中毒事件との関連性

ひとたびノロウイルスが汚染された刻み海苔が原因であると判明すると、他の事件との関連性も芋ずる式に分かってきます。

自治体Cの別の市で起きた事例⑤や事例⑥は、事例③の調査時点で発生したことから、比較的短時間に原因食品の特定が可能であったと思われます。

また、自治体Bで1月26日発生した事例②や自治体Dで2月18日に発生した事例⑤は発生当時の調査では、原因食品の特定には至っていませんでした。しかし、上記のような情報を受け、ノロウイルスに汚染された刻み海苔の使用や流通を調べることで、食中毒の原因と推定される食事に同じ刻み海苔が使われていたことが判明し、関連性が明らかにされました。

4. まとめ

以上、これらの食中毒事件が、分散型広域食中毒事件であることが明らかにされた経緯についてまとめてみました。

事件の究明には、保健所の調査や衛生研究所の検査、そして自治体間や国との連携が大きな役割を果たしています。事件が解明したことは望ましいことであり、関係者のご努力に心より敬意を表します。そして、同様な事件の再発防止に繋げていただきたいと思います。

一方で、事例①と事例②の食中毒事件が発生した時点の調査において、両自治体の間で、刻み海苔の使用の有無等の疫学調査の共有や検出ウイルスの遺伝子の比較が行われていたら、その時点で、ノロウイルスに汚染された刻み海苔が流通していることが分かり、事例③以降の食中毒を防止できた可能性もあるのではないでしょうか。自治体の調査や検査の進め方や情報共有の在り方についても、今回の事例が教訓となることを願っています。

なお、上記については、出典を参考として、一部筆者の個人的な考えや想像が含まれています。ご理解いただければ幸いです。

出典

1)野田 衛:刻み海苔を介したノロウイルス食中毒事件が教えてくれたこと、国立医薬品食品衛生研究所報告、135、6-17(2017)

2)野田 衛:本邦初の刻み海苔を介した分散型広域ノロウイルス食中毒事件の全体像、食品衛生研究、67、11月号、7-14(2017)

3)厚生労働省:平成29年度全国食中毒事件録-厚生労働省食中毒統計資料より-(令和2年刊)、公益社団法人日本食品衛生協会出版

 

参考

ノロウイルスの予防法

刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(1) ~ウイルスによる分散型広域食中毒~

刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(2) ~刻み海苔の汚染原因~

刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ(3) ~これまでの食中毒とは異なる特徴~

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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