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消毒剤の基礎知識(3)アルコールはノロウイルスに対して有効?

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消毒剤の基礎知識(3)アルコールはノロウイルスに対して有効?アイキャッチ

アルコール系消毒剤によるノロウイルスの不活化(殺菌)は、これまで「効果が期待できない」、「不活化が困難と考えられる」などと表現され、その使用は推奨されていませんでした。

このように表現があいまいであったのは、ノロウイルスを培養細胞等を用いて増殖させることができず、消毒剤等による不活化試験ができなかったことが大きな理由です。そのため、ヒトのノロウイルスに似ている代替えウイルスを用いて不活化試験を行い、その評価結果から、ノロウイルスも同様だろうと推定されていました。

しかし、最近になり種々の培養細胞で、ヒトのノロウイルスの増殖が確認され、不活化試験を行うことが可能となってきています。今回は、ヒトノロウイルスのアルコールによる不活化を調べた佐藤らの論文(文献1)について紹介します。詳しくは原著論文を参照してください。

 

1. エタノールと次亜塩素酸ナトリウムによる不活化

食中毒や感染性胃腸炎の主要な病原体の一つであるノロウイルスの不活化(殺菌)には一般に次亜塩素酸ナトリウムが使用されています。そこで、ノロウイルスの遺伝子型GII.4の2株(17-231、17-53)とGII.17の1株について、70%エタノールと1,000ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウムを用いて不活化試験が行われました(表1)。5分間作用させたところ、5log(100,000)程度のウイルスは次亜塩素酸ナトリウムにより検出限界(約2log)以下に完全に不活化されました。一方、エタノールでは、GII.4の2株は2log程度まで不活化されました(ただし、完全には不活化されていない)が、GII.17では5log程度のままで、ほとんど不活化されませんでした。

この結果は、次亜塩素酸ナトリウムはこれまでの代替えウイルスによる結果と同様にノロウイルスに対して有効であることを示す一方、アルコールの有効性は、株によって異なり、不活化されやすい株と不活化されにくい株があることを示しています。

表1 70%エタノールと1,000ppm次亜塩素酸ナトリウムによるヒトノロウイルスの不活化
遺伝子型
(株名)
反応後のウイルス量
水(コントロール) 70%エタノール 1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム
GII.4(17-231) >5log >2log ★
GII.4(17-53) ~5log >2log ★★★★
GII.17 >5log >5log

反応条件:ウイルス液と消毒剤等を1:3の割合で混合し、5分間作用

表1~表5の見方:表中のウイルス量は、ウイルスと消毒剤等を反応後、反応液を希釈し、iPS細胞由来の腸管オルガノイドに接種し、培養を行った後の遺伝子量定量値。表中の★印は、コントロール(水と混合)における定量値と比較して、統計学的に有意差が認められた(不活化された)ものを示す(★は危険率5%、★★は危険率1%、★★★は危険率0.5%、★★★★は危険率0.1%)。表中の「>」、「~」は、それぞれ右の数値(log10)より多い程度、少ない程度であることを示す。「-」は検出限界(約2log)以下であることを示す。logの表記については、「コロナ禍で日常化したアルコール手指消毒の食品取扱者における影響」参照。

2. クエン酸等を添加したアルコールによる不活化

一般に、ノロウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルスなどエンベロープと呼ばれる膜を持たないウイルス(非エンベロープウイルス)はアルコールに対して耐性(不活化されにくい)、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどのエンベロープで覆われているウイルス(エンベロープウイルス)はアルコールに対し感受性(不活化されやすい)です。これは、エンベロープウイルスではエンベロープを構成する脂質がアルコールで溶け、感染力を失うのに対し、非エンベロープウイルスでは蛋白質(カプシド)で覆われているためアルコールで変性しにくいためです。

一方、酸性(低pH)環境下でアルコールを用いると、非エンベロープウイルスに対する不活化効果が高まることが示されていました。そこで佐藤らは、クエン酸やレモン等を添加し、酸性条件下にしたアルコールを用いて、種々の遺伝子型のノロウイルスに対する不活化効果を調べました(表2)。クエン酸のみまたは70%エタノールのみで反応させた場合、遺伝子型GII.17のノロウイルスはほとんど不活化されませんでしたが、70%エタノールに0.5%~2%のクエン酸、または15%レモン汁を加えたものを用いた場合は2~3log程度にまでウイルス量が減少し、不活化効果が認められました。

遺伝子型GII.3、GII.6、GI.7のノロウイルスも70%エタノールではほとんど不活化されませんが、1%クエン酸添加70%エタノールでは2~3logに低下し、不活化効果が確認されました。

ただし、いずれのノロウイルスも完全には不活化されていません。

表2 クエン酸添加エタノールによるヒトノロウイルスの不活化
遺伝子型
反応後のウイルス量
(コントロール) 2%
クエン酸
70%エタノール 70%エタノール
0.5%クエン酸
70%エタノール
1%クエン酸
70%エタノール
2%クエン酸
70%エタノール
15%レモン
GII.17 ~5log >5log >5log >3log ★★  ~3log ★★  >2log ★★ >2log ★ 
GII.3 >5log   >5log   >2log ★★★     
GII.6 >4log   >4log   >2log ★     
GI.17 >4log     >4log   >3log ★★     

処理条件:ウイルス液と消毒剤等を1:3の割合で混合し、5分間作用

 

3. 短時間作用によるクエン酸添加エタノールによる不活化

アルコール消毒は、一般にアルコール濃度が低下すると殺菌効果も低下することから、水分の少ない環境で使用することが大切です。手洗い後にアルコール消毒する場合、ペーパータオル等で十分に水分を取り除くことが重要なのはそのためです。

表1表2は、ウイルス液と消毒剤等を1:3の割合で混合させ、5分間作用させた実験の結果です。この条件では、アルコール濃度が低下する、作用時間が長いなど、実際の使用環境とは少し異なっています。そこで、佐藤らは、実際の使用環境に近い環境(ウイルス液と消毒剤を1:9の割合で混合し、30秒から120秒作用)で、クエン酸添加エタノールの不活化を調べました。

70%アルコールで不活化効果が認められたGII.4(17-53)は1%クエン酸添加70%エタノールを30秒作用することで検出限界(約2log)以下まで完全に不活化された一方、GII.17については30秒、60秒では3log程度、120秒では2log程度までウイルス量が減少しましたが、完全には不活化されませんでした。

これらの結果は表2の結果とほぼ同様でした。

表3 70%エタノール+1%クエン酸によるヒトノロウイルスの不活化
遺伝子型
(株名)
反応後のウイルス量
(コントロール) 70%エタノール+1%クエン酸
30秒 60秒 120秒
GII.4(17-53) ~5log  - ★★  - ★★  - ★★ 
GII.17 ~5log  ~3log ★★ ~3log ★★  >2log ★★

処理条件:ウイルス液と消毒剤等を1:9の割合で混合し、30~120秒間作用


4. 有機物存在下でのクエン酸添加アルコールによる不活化

一般に有機物が存在すると消毒剤の効果は低下します。特に、次亜塩素酸ナトリウムなど塩素系消毒剤は、活性の本体(不活化を起こす物質)である遊離塩素が有機物に消費されるため、有機物の存在に大きく影響を受けます。

そこで、佐藤らは、クエン酸添加エタノールの不活化効果を有機物(牛エキス)を含む環境で調べました(表4)。また、凝集剤として使用される硫酸マグネシウムを添加し、有機物を不溶化する影響についても併せて調べています。

その結果、牛エキスを添加(3%または5%)した環境では、遺伝子型GII.4(17-231)、GII.17のノロウイルスに対する1%クエン酸添加エタノールの不活化効果は大きく低下しました。しかし、硫酸マグネシウムを添加することで、不活化効果が高まり、5%牛エキス存在下でも、牛エキスを含まない環境と同等の不活化効果が得られています。

表4 種々の条件における有機物存在下でのクエン酸添加アルコールによるヒトノロウイルスの不活化
  反応後のウイルス量        
消毒剤


EtOH
クエン酸


EtOH
クエン酸
硫酸Mg


EtOH
クエン酸


EtOH
クエン酸
硫酸Mg
 水
EtOH
クエン酸


EtOH
クエン酸
硫酸Mg 

牛エキス(含有率) 3% 3% 3% 5%  5%  5%

遺伝子型
(株名)

GII.4(17-231) >5log -
>5log  >5log
★★★★
 >5log  >5log  -
★★★★
GII.17 ~6log >2log ★★ >2log ★★ >6log ~6log >2log ★ ~6log  >5log  >2log ★ 

処理条件:ウイルス液と消毒剤等を1:9の割合で混合し、5分間作用。
EtOH:70%エタノール、クエン酸:1%クエン酸、硫酸Mg:0.05%硫酸マグネシウム

 

5. 市販酸性化アルコール系消毒剤によるヒトノロウイルスの不活化

現在、酸性環境にしたり、ノロウイルスの不活化に有効と思われる成分を添加するなどして、ノロウイルスに対する不活化効果が高まっていると思われるアルコール系消毒剤はいくつか市販されています。上述のように、これらの製品の多くはヒトノロウイルスを用いた評価ではなく、代替えウイルスによる評価試験により有効性が確認されたものです。一部には、本論文と同じように、ヒトノロウイルスを用いた評価試験が行われている製品もあります。

佐藤らは、市販されている酸性化アルコール系消毒剤の一部(pH:2.9~4.2、エタノール濃度:63% [v/v]~81% [v/v])について、ヒトノロウイルスに対する不活化試験を行いました(表5)。その結果、アルコールに対して感受性の高い遺伝子型GII.4は2logから4logに低下し、製品により違いがあるものの不活化効果が認められました。一方、アルコールに対して耐性であるGII.17は、製品BやCではほとんど不活化されませんでしたが、製品AやDでは検出限界以下まで不活化されました。

このように、一部の市販のアルコール系消毒剤はヒトノロウイルスに対し不活化効果を持つことが確認されました。

表5 市販酸性化アルコール系消毒剤によるヒトノロウイルスの不活化
遺伝子型
反応液
水(ウイルス量) 市販品A 市販品B 市販品C 市販品D
GII.4(17-53) >5log >2log ★ >4log ★ >3log ★  >2log ★
GII.17 >5log - ★  >5log  >5log >2log ★

処理条件:ウイルス液と消毒剤等を1:9の割合で混合し、5分間作用。

6. まとめ

以上、佐藤らによる、ヒトノロウイルスに対するアルコールの不活化効果に関する論文を紹介させていただきました。これまで言われていたように、ヒトノロウイルスに対するアルコール系消毒剤の不活化効果は低いことが確認されました。一方、酸性環境に置くことで、アルコールの消毒効果が高まることが示されました。また、市販品の一部にも有効性が確認されたものもあるようです。使用される場合は、メーカーの説明書等を参考に消毒効果が期待できるものを使用されるとよろしいかと思います。

さらに、アルコール系消毒剤による不活化効果には、ノロウイルスの種類によって違いがあることも示されました。興味深いことに、2000年以降ノロウイルスの主要な流行株であり、2006年12月に大流行した遺伝子型GII.4はアルコールに対し感受性が高いようです。GII.4はヒト-ヒト感染や、調理従事者からの二次汚染を原因とする食中毒の原因になりますが、カキ等の二枚貝を介する食中毒事件からはあまり検出されません。つまり、GII.4は環境での生存性が低く、消毒剤に対しても不活化されやすい株なのかも知れません。一方、アルコールに耐性の高い遺伝子型GII.17のノロウイルスはカキからも高頻度に検出されます。さらに、「刻み海苔を介した大規模ノロウイルス食中毒事件から学ぶ」で紹介させていただいたように、GII.17は乾燥した刻み海苔に付着した状態でで2か月もの長期間、生存性を保持し、1,000人を超える食中毒を起こすほど、環境での生存性が高いウイルスです。紹介した論文は一部の株のデータであり、アルコールに対する抵抗性と生存性とを関連付けることは難しい部分もありますが、大変興味深い結果だと思います。

今回紹介したデータでは3log程度の不活化(ウイルス量が1/1000に低下)しか、調べられていません。今後、より精度の高い方法で評価試験が行われることが望まれます。

なお、本内容は参考文献のデータを基に、筆者が考察を加えたものになります。データの詳細については原著をご参照ください。

著者

野田衛先生

野田 衛先生

麻布大学 客員教授
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
公益社団法人日本食品衛生協会 学術顧問
株式会社町田予防衛生研究所 顧問


<略歴>
1981.3:日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医学科卒
1981.4~1982.3:農林省動物検疫所
1982.4~2006.12:広島市役所(衛生研究所等)
2007.1~2018.3:国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部・第四室長

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